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第21回 2025年8月 K農園議事録 前編

2025.12.08

かめっち先生が、M氏の運営するK農園について何人かと話しました。その様子をお届けします。

M氏「自分は20年ほど前に親元就農してこの観光農園の経営に入りました。そもそも父が35年前に観光農園を始めたことがすべての始まりです。もともとこの植木地区はスイカの名産地で、ほかにも柑橘などが作られていましたが、“周年で果物需要に応えたい”という思いから観光農園化をスタートしました。

観光農園化した当初は、地元のJAなどからやっかまれ、うちの果樹を引き取らないという仕打ちを受けたこともあったようで、その頃は父もかなり堪えたと聞いています。ただ、観光農園を始めたことで、小学校の遠足でうちの果樹園が目的地になった時は、誇らしい気持ちを覚えました。」

M氏「現在の売上は、観光農園が6000万円、カフェ収入が6000万円、そしてプリン工房が5000万円と、かなりバランスの良い構成になっています。園地の社員も、イチゴとブドウで作業時期を分散できているので、年間を通して仕事を確保できます。

観光農園での収入は、①果物狩り、②贈答用やふるさと納税などの高付加価値帯、③直売所、という三つに大別されます。個人的には、日本の果樹は品質項目が厳しすぎるわりに値段が安いと感じています。直売や果物狩りでは外観品質を気にする人はほとんどいないので、食味さえ良ければ、あまり考えすぎず、過管理にならない効率的な園地管理を目指しています。」

かめっち「観光用や直売用は同感だが、贈答用の高付加価値果樹もそのスタンスで通用するのか?」

M氏「贈答用のブドウは6月ごろに出荷しますが、その時期は夜温が色づきに最適です。そのため、2~3か月ほど促成気味に加温栽培をしています。全部で15棟あるブドウのハウスのうち、加温ハウスは2棟だけなので面積は大きくありませんが、工夫次第で贈答の要件を満たす果物は十分に栽培できます。」

M氏「夜温が下がらず品質に悪影響が出る、という話が全国で話題になっていますが、自分はそこまで気にしていません。ブドウに関しても、確かに着色はやや甘い部分がありますが、食味には全く問題のないレベルに収まっていますし、急に病気が広がるといった大きなトラブルも今のところありません。」

M氏「インバウンドによる収入も軽視できないほどのポテンシャルがあります。彼らは円安や円高に関係なく日本に来ると思います。というのも、日本の果物の単価がそもそも低すぎるからです。特に台湾の方は果物が大好きで、たくさん買っていきます。台北に行くと、ごく普通の果物屋が街にかなりの数あって、それらがしっかり生き残っている。あれが彼らの消費の強さを物語っています。」

かめっち「アジア系のインバウンドは熊本を狙い撃ちで来るのか?」

M氏「彼らは九州全体を1週間ほど回る中で熊本にも寄ります。多い人は月一ペース以上で来るので、本当に良いお客さんです。また、九州には周年型の観光農園がほとんどないため、近年は海外のお客さんが増えています。一応、英語が話せる社員を雇って対応しています。」

M氏「経営に関しては、売上も大事ですが、粗利のほうがもっと大事だと思っています。」

A氏「この細かいカレンダーについて詳しく教えてもらえるか?」

M氏「これは、各圃場で3年分にわたって、①いつ、②どの圃場で、③何をしたか、を記録し続けている作業データです。熊本県が作った作業日誌用のWebアプリを使って、社員にもパートにも記録させています。圃場ごとに作業をきちんと記録しておくことで、何か問題が発生したときに原因を遡れるようになります。

今はNTT東日本の栽培日誌アプリなど、リアルタイムで追記できるシステムもいろいろあるので、どれを使うかは好みでよいと思います。」

H氏「野菜は全くやっていないのか?」

M氏「昔、施設のつながりでトマトを5年間だけやったことがあります。ただ、これまでの果物栽培はBtoCだったのに対し、トマトは完全にBtoBだったので、既存のお客がそのままトマトを買うという相乗効果を生めませんでした。

新規事業を立ち上げるときは、既存の設備・顧客・技術といったレガシーをいかに活かすかが重要ですが、その中でも“顧客”が最も大事だと実感した、良い失敗でした。」

F氏「社員教育などは行っているか?」

M氏「SIM教育のようなものを取り入れていますが、雇用条件が月6日休みしか保証できない点は課題です。また、I氏のところは時間当たりの売上が6000円なのに対し、うちは5000円なので、改善の余地はまだあります。」

F氏「採用はどうか?」

M氏「募集を出せばかなり多くの人が応募してくれるので、人手不足に困っている感覚はありません。この地域は、都会で夢破れて帰ってきて親元就農する若者が多い印象があります。うちにも若い人材が正社員・パートの両方で働いてくれていますが、これはカフェやプリン工房の存在も大きいと思います。」

M氏「ほかの園地を視察する際はバックヤードを見るのが良いと思います。うちは冷蔵庫1台、冷凍庫1台と連棟用の1台の計2台で回しています。この少ない台数で回せている理由は、収穫したものをほぼ即日発送して在庫を極力残さないようにしているからです。」

かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)

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