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第14回 東三河山村の感想 前編

2025.10.13

今回のブログは、かめっち先生が参加した愛知県東三河村での移住体験に関するレポートです。全二回に分けてお届けします。

まず最初に触れておきたいのは、今回の移住体験に参加したメンバーの年齢層の若さと移住に対する本気度の高さについてである。そのおかげもあってか、バス内での会話からすでに移住を見越した内容が多く、皆が趣味嗜好やプロフィールをオープンに語り合っていた。まるで初対面ではないかのような、一体感のあるアットホームな雰囲気であった。

道の駅したら

からあげ定食を注文すると、非常においしくて驚いた。
時間の都合上、あまり中をゆっくり見られなかったのは残念だったが、客でいっぱいの食堂や活気ある雰囲気から、この道の駅が地域に人を呼び込む拠点としてしっかり機能していることがよく伝わってきた。

したらワークスにて座談会

続いて、豊田市・設楽町・豊根村から、それぞれ地域のカギを握る移住者の方々にお越しいただき、お話を伺った。

豊田市からはTさんという方が登壇された。自分もかつて地方自治体の職員として過疎地域の振興に関わった経験があるが、その中で求められるのは「金銭」を介した支援プログラムばかりだった。
それに対して、Tさんは、地域で唯一の新聞配達業者が廃業した際に「じゃあ私がやりますかね」とあっさり引き受け、その後、牛乳配達業者が廃業した際にも同様に引き受けたという。そして、新聞と牛乳を同時に配達すれば大幅に効率化できることに気づき、一人当たりの生産性を高め、より多くの給与を支払える仕組みを作ったと語っていた。

やはり、体を動かして挑戦する中でしか見えない、想像を超えた発想があるのだと痛感した。金銭による補助ありきではなく、地域の人が主体的に動くことで初めて地域が動き出すというダイナミズムと、その「主体的な動き」が決して特別なことではなく、生活に必要なピースを埋める行為なのだということを思い知らされた。

座談会後もTさんと個人的にお話ししながら街歩きをした。その際、「地域に移住してきた人に対して、どのように接するべきか」と質問したところ、Tさんはこう答えた。

「その人次第ではあるけれど、まずは思っていることをすべてさらけ出して、すっきりしてもらうことが大事。すっきりした上で、都会に戻るか、移住を決断するかを自分で決めれば、その答えには本人が納得していることが多い気がする。」

また、「地域活性化のために最も重要なことは何か」という無茶な質問に対しては「住民自治」というストレートな答えが返ってきた。さらに、「さまざまな地域人材を雇う際の注意点」について尋ねた際には、

「あまり前もって準備しすぎても仕方ない。何か起きたらその都度対応する。ときにはさっさと諦めたり、謝罪したりして次に進むことが大切。」
という回答だった。

こうした“当たり前だけれども実践するには苦しみを伴う常識的な答え”を、実際に地域の中で体現している胆力には、ただただ頭が下がる思いだった。こういう方にこそ、行政が重点的に補助を出すことで、本当に効果的なお金の使い方ができるのだろう。

そして僕が何よりもTさんを素敵だと思ったのは、この発言だった。

「都会にはものすごく高い能力を持った人がたくさんいるけれど、その能力が都会のシステムの中では生かしにくいこともある。だからこそ田舎に来て、自分を異なる価値観から見つめ直す時間を持つのもいいと思う。」

こんな人が上司だったら本当にありがたいのに、と思わず感じた。

続いて、「したらワークス」代表のSさんのお話を伺った。Sさんは地域内で人材派遣業を行っているが、パソナのような無責任な派遣とは異なり、地域での生活基盤を支えるマルチワーク支援を目的としている点が非常に重要である。

設楽町には、土木・森林・農業・建設などの民間企業がいくつか存在し、どの企業も人手不足である反面、終身雇用は難しいという現実がある。そこで、これらの企業でのパートタイム労働を組み合わせ、自らの生活を成り立たせる人々を支援することで、設楽町への移住を促進している。

特に感心したのは、社会保障に対する考え方だ。マルチワーカーは従来、不安定な働き方と見なされ、社会的に軽視されてきたが、その大きな要因が社会保障の欠如にあった。この問題を、「したらワークス」が雇用者として社会保障を担うことで解決している。
農業でも、複数の農園で働く人たちが根付かない理由の一つが社会保障の欠如であると聞く。この手法は、他地域でも大いに参考になると感じた。

ただし、実際には雪かきや介護など多岐にわたる業務をこなす必要があり、マルチワーカーとして地域に定着できる人は多くないかもしれないという印象も受けた。

Sさんはもともと京都でデザイナーをしており、設楽町とは無関係だったが、ある縁で関わるようになり、そのままこちらでの生活に入っていったそうだ。現在の設楽町地域おこし協力隊のKさんも、Sさんの仕事を通じてこの地域に関わるようになったという。信頼関係をもとに人を呼び込むという手法が、最もリスクが低く、リターンの大きい方法なのだと感じた。

次に、設楽町の元副町長・Hさんからお話を伺った。この方は上京経験を挟みつつも、ずっと設楽町に居続けているそうで、少々ぶっきらぼうなところもあるが、地域への思い入れは深く、地域内の重要人物を把握しているあたり、まさにキーパーソンだと感じた。
ただ、HさんとSさんとの対話があまりないことが課題のようで、ここを建設的に連携できれば、設楽町により多くの雇用が生まれる機運が高まりそうだ。

最後に、豊根村で地鶏を販売しているご夫婦のお話を伺った。
このお二人の話は、夜の懇親会でさらに面白いエピソードをたくさん聞けたので、そのときの内容は次回まとめて記したい。

このように、移住者が自分の能力を自由に発揮できる環境が整ったとき、地域は大きな利益を得るということを、前回の佐久島ツアーに続いて改めて感じた。人口減少地域で求められるのは、物事を自分で決めて遂行する力であると同時に、日々の暮らしの中で相手の好意を受け入れ、それに応える素直な心も大切だと実感した。

最後に見学させていただいたお茶畑は、なんと無農薬栽培とのことで驚かされた。お茶ほど虫や病気が出やすい作物はないと聞いていたが、生産者の方は「虫なんてほとんど出ないよ」とあっけらかんとしており、やはり現場に行ってみないと分からないと強く感じた。
帰宅後にいただいたお茶は、とてもおいしかった。

かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)

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