第8回 2025年7月_山梨紀行 その3
2025.09.01
カメッチ先生がお役人カイギで知り合った、山梨県庁のスーパー公務員Nさんを訪ねての山梨紀行です。3つに分けてお届けします。今回は最終回の第3回です。
ふたたび直売所へ
袋詰めと梱包を済ませたトウモロコシとモモを持って、今一度直売所へ向かった。中に入ると、すでに在庫としてあったトウモロコシと桃は姿を消しており、お客さんもまばらな状態だった。そんな中へ新しいトウモロコシと桃を持っていくと、店内のお客さんがほぼ全員集まって来て、それぞれ10袋、10箱程度あったものが、3秒ほどで消えてしまった。このお客さんたちはもはや値段を気にしておらず、これが旬の産地の力なのかと感動した。ただ、これは山梨県が東京に近いという地の利も大きく影響しているだろうとも思ったので、こういった旬のマーケットを、もっと全国単位で活性化していき、日本の文化のようにしていけたらいいなと思った。
昼ごはん、農大生と合流
お昼ご飯を準備している最中に、農大生が4名やってきた。貴重な休日を農作業ボランティアにあててくれるのは非常にありがたい。皆の出身は東京近辺であることもあり、こういった農業地帯を訪れること自体が旅行感覚なので、あまり労働をしている感覚はないとのことだった。中心的な役回りをしている2人の男子と話したが、いわゆるやる気にあふれた大学生、といったとても良いオーラが出ていた。3年生の子は、もう何回もここに来ているようで、現在は就活に向けたインターンなどで少し忙しいらしい。第一志望はカゴメとのことで、最初に企業を経験できるのも素晴らしいが、こういう人材にはできれば農政か農業従事者になってほしいと思った。彼らは全員農業経済の学生らしく、自分たちには専門性が無いが、逆に言えばなんだって挑戦できる、とも話してくれ、頼もしい子たちだなぁと改めて活躍に期待したくなるのだった。

昼ご飯はとれたての野菜や果物と、Nさん手作りの麻婆豆腐で、これがまためちゃくちゃおいしく、午後からの作業も頑張ろうという気持ちになった。
桃の除袋
今日の最後の作業は、「なつっこ」の除袋作業だった。Nさんから「桃の袋掛けは、最初は日光を遮断することで、桃の実が持つ地色(緑色)を抜き、収穫10日前くらいに袋を取って日光を当てることで、非常にきれいなピンクの色味を乗せることができる。この袋掛けに対する考え方も各産地で違っており、例えば岡山県は、収穫の直前まで袋をつけておくことで、非常に繊細な白ベースのピンクを表現し、高付加価値市場を狙うという戦略でやっており、福島県は、そもそも袋自体をかけないでコストを下げ、安価な桃を大量生産するという戦略をしている。震災と穿孔細菌病の影響で、一時期生産量が落ちた福島だが、完全に量産体制を確立し直して、数年したら山梨県を抜くのではないかと思われる。最後に山梨県だが、福島県とは競わないように袋をかけて、今樹になっているようなピンク色の美しい個体を生産して、やはり高付加価値市場を狙っている。桃は先ほども言った通りキロ1000円程度で推移しており、シャインマスカットはキロ2000円、巨峰はキロ1400円ということを考えると、単価から逆算しても桃はなかなか割がいいと思う。」という説明をいただいた。それ以外にも新規就農で野菜と果樹両方を行うメリット(果樹が結実するまでの期間を野菜で補う)についても非常にわかりやすく教えて頂いた。

ここからは除袋作業である。桃を覆っている紙の袋をどんどん外していく作業だが、想像以上に紙が外しやすかったので、片手で5枚ずつ、手を入れ替えながら取っていくのが最も効率的だった。ただ、風が非常に強かったこともあり、袋をまとめて握る際に飛んでいかないようにする工夫が求められた。他のメンバーも手早く動いてくれたこともあり、2時間ほどで作業を終えることができた。
さいごに
Nさんのバランス感覚は、お役人会議のSさんからも聞いてはいたのだが、本人に会うことで改めて理解できた。今回話をする中で、「根回し」というフレーズを多用しておられたが、これは一人だけで戦うのではなく、きちんとチームで戦うために必要だ。根回しができる人間は、自分のフィールドを持っていて、人材ネットワークを有しているなどの強みを持っていなければならないのだと学んだ。Nさんに対して抱いた印象は、指揮官タイプにもなれるのだが、点を取りに行く方が好きなフォワードという感じだった。公的機関の弱点として、点取り屋が不足していることから、民間の点取り屋との協業がうまくできないことがある。Nさんのような点取り屋かつボランチのような方は、その場のプレーヤーバランスによってポジションを変幻自在にこなすことができる。このマルチタレント性こそが、Nさんの周りに人が絶えず、そこを起点に新たな面白い何かが展開されていく理由なのだろう。こういうタイプの方が実際に農業もしているということが特筆すべき点であり、だからこそ民間・アカデミア・農業現場が連携することができる素地が完成するのだと思う!
…かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新予定)