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第7回 2025年7月_山梨紀行 その2

2025.08.25

カメッチ先生がお役人カイギで知り合った、山梨県庁のスーパー公務員Nさんを訪ねての山梨紀行です。3つに分けてお届けします。今回は第2回です。

 トウモロコシ圃場

そんな話をしながら、トウモロコシの畑に着いた。例年であれば、7月15日くらいまでは収穫が続くのだが、本年は7月10日に収穫が終了してしまったとのことだった。

Nさん曰く「ここの圃場は畝間を通常のトウモロコシ圃場と比較してかなり広くとっており、SSや乗用モアを使用することができるよう工夫してある。これによって収穫量は一般の畑の8割程度まで削減されてしまうが、作業が飛躍的に簡単になる。しかもこの中道地区は、果樹と野菜を並行して栽培することで経営を成り立たせている農家が大半を占めているので、果樹栽培で使用する機械を野菜栽培に横展開できるというのも非常においしいのだ。」と教えてくださった。まさに技術士が農業することの意味というのは、こういう「園地内でのアイデア醸成とPDCAサイクルの実行」を可能とする点にあるのだなと、ここでも深い感動に襲われた。Nさんの非常に工学的な農業への参与は、農学の世界にどっぷり漬かりすぎていた自分にとって新しい視点ばかりで、刺激的であった。

ここでの作業は、イノシシ対策用の紐を回収することだった。中道地区は山際に存在しているので、かなりイノシシが出てくるとのことで、簡易的な紐による囲いを作るだけでも効果が大きいという。

トウモロコシの袋詰め

50本程度のトウモロコシが収穫できたので、直売所に持っていきお小遣い稼ぎをしよう、という流れになった。

まず最初に、採ってきたトウモロコシの選果を行った。この時にトウモロコシの頭の部分(毛が生えている)に痛みがある場合は切断したり、外皮を1枚剥いで、中の果実が見えるようにし、虫が入ったり萎びたりしていないかを確認したりする。また、サイズによる選果を同時進行で行っていく。

今回は、MサイズとLサイズのみだったので、箱に梱包する手間を考慮して、ポリ袋に5本ずつ入れて、テープと山梨県が認定する炭素貯留型農法への認証シールを貼っていくという作業をお手伝いした。当然の話なのだが、Mサイズとて全く同じ大きさではなく、サイズの中での大小があるため、袋に入れるときにはそのあたりのバランス(大きいものを最初に深く詰めて、小さいものを後から詰める)をとって、お客さんが手に取った時の見栄えをよくする必要がある。また、軸の部分が下に来るように揃えて入れるのも見栄えをよくする上で重要であり、自分がこの上下をバラバラに入れたときの見た目の悪さは想像以上だった(毛の生えた部分が下に行くと、何だかとても汚い印象を与える)。

梱包のセンスがないということでクビになり、直売所のテープを2か所に巻いてトウモロコシの袋を締めるのと、認証シールを貼る役割に異動した。この山梨県のシールは、「おいしい未来へやまなし」というロゴが入っており、4パーミルイニシアチブという世界的な運動を根拠とする認証のようだ。要は二酸化炭素の排出を、炭素貯留型の農法実践を通じて抑制するという、フランス政府が主導して考えられたものらしく、山梨県ではかなり普及が進んでいるらしい。このテープをうまく貼るコツは「テープを袋につけた状態で、袋を手前に引きつつ絞る意識で回転させること」らしく、これを意識するときれいにテープが貼れる。

桃の箱詰め

本日の午前に到着するはずの東京農業大生が、バス遅延の影響で12時頃まで遅れる、ということから、桃も少しだけ収穫しよう、という流れになり、白鳳の収穫と箱詰めを行った。収穫はNさんがさっさと終わらせてくれたが「今年は雨が少ないので、味はいいのだが実が非常に小さい。JAだと重量単価なので、そういう意味では厳しい。」と教えてくれた。

そして箱詰めに移る。まずはNさんが桃を大きさによって選り分け、さらにウレタンキャップを被せた状態にしてくれるので、それらをサイズによって6つ(3×2)、通常よりも少しサイズが大きい6つ、7つという3種類の箱を作った。ここでうまく詰めるコツは、まず縫合線の向きを合わせることである。その次に、少し手前を低くするように箱を傾けることで、桃が自身の重量で下に詰まっていく状況を作ることが大事になる。特に7個詰めるときは、かなりきつくなるので多少の強引さが求められるのだが、5つ目あたりを入れた段階で、一度全体的に下に押し込むと、ウレタン同士が接触して縮むことから、残り2つの桃のスペースが生まれる。逆に言えば、これくらい窮屈に詰めないと、車での移動の最中に桃が飛び出してしまうのだ。最初はこのあたりの要領をつかむのが難しかったが、レタスの梱包での経験で、ラスト2個を詰める前に、全体を押し込んでスペースを作った経験があったので、それを応用できてうれしかった。また、桃は硬い時期に収穫すればそこまでデリケートに扱わなくてもよいことが分かって勉強になった。

いわゆる規格外扱いになっている桃の中に、形は少し扁平だが、見た目には非常にきれいなものが沢山あったので、これは何かと尋ねると「これは核割れを起こしている桃で、縫合線の頂点の部分になぜか味が乗らないという特徴がある。核割れは硬核期に先立って果実が肥大成長をした時に起こる現象で、種子による養分吸収力が低下することで、果実組織が充実しなくなり、結果腐敗しやすいという特徴がある。」と教えてくれた。やはり形が良くないものにはそれなりの理由があるのだなと思った。

朝食・中道地区について

作業がひと段落したタイミングで朝食をいただいた。採れたてのトマト、ポテトサラダ、桃、すもも、卵といったほとんどをNさんご自身で生産しているという驚異の自給率の朝ごはんだ。そして何よりも驚いたのが、ポテトサラダとすももの組み合わせだった。ポテトサラダの上に、甘酸っぱいすももが添えられるとこんなにもさわやかになるのか、と非常に貴重な経験をさせていただいた。

また、食事中に中道地区についていろいろお話をしていただいた。「この地区は、基本的には扇状地になっており、水はけがよく地力も高いので、農産物の生産には非常に適している。さらには畑かんも入っているので、あらゆるところに立ち上がりが存在し、灌水や防除などが非常にやりやすいという利点がある。一方で、昭和40年代の基盤整備にて敷設されたものなので、改修時期に入ってしまっており、こういった先人による財産のかけがえのない価値を周知し、維持するために地域の協力を仰ぐ必要に迫られている。」というお話を聞いた。そこから、自分が行政時代に関わっていた梓川の灌水利用料を地代に転嫁したことで、新規就農者と地主でいざこざが発生した事案を思い出した。農家からすると、こういった「畑かん」の偉大さが分からないので、地代が高くなることに忌避感が募るのも理解できるが、地主サイドとしても、従事者が使用者としての義務を果たすべき、という考えに至るのも同様に理解できる。こういった対立に対してNさんは、「自分も新規就農者に農地を貸しているが、様々な事情を考慮して、最初はものすごく安く貸し出して、経営が軌道に乗ってきたら賃料を上げていくというスタイルを取っている。もちろんそれもきちんと耕作者と話し合ったうえで決めている。」と話しており、こういう柔軟さが、物事を円滑に進めていく上で必要だよなぁと再認識した。

話は中道地区に戻り、「10年前に除雪作業をきっかけに、東京農大を卒業してすぐに中道地区に移住をしてきた奇特な若者がおり、その子が地域を支える担い手になっていくのだろうと期待していたのだが、つい最近心筋梗塞で亡くなってしまった。現在は、彼の住んでいた家を地域で借り上げて、研修用の宿泊施設としており、自分の所に手伝いに来てくれる農大生が宿泊できるようにしている。元々彼も農大の農業サークルに属しており、その縁で生前から農大の学生を継続的に受け入れていたため、彼の行動を自分が引き継いでいる。」と教えてくれた。また、「山梨県では、15年ほど前に、自分の上司が中心となって、各地域単位で農業研修生を受け入れる仕組みを構築しており、中道地区はそれらをうまく使いながら、甲府市としての単独事業や、中山間ルネサンス事業なども織り交ぜて、外部からの援農人材や新規就農希望者に対して交通費等の支払いを工面できるようなシステムを確立させている。最終的な事務処理も、事務方を一人雇えているので問題ない。」と教えてくれた。このあたりはもう少し深掘りしてお聞きしたかったが、とにかく県での職歴を、ここまでご自身の営農にフルで生かしている人を初めて見たかもしれない。しいて言えば岡山県庁のHさんが似たような立ち位置ではあるのだが、Hさんは30年間現場の普及指導というまた別のスペシャリストなので、ぜひお二人が楽しくディスカッションできる場を設定したいなと思った。現場のプロと、農業周りのゼネラリストが中山間農業をどのように持続可能に回していくか、これは日本の農業を考えるうえで非常に大事なテーマになるだろう。

…その3へ続く(毎週月曜日更新予定)

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