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第17回 「四角いスイカ」の向こう側に見えること。

2024.07.04

さて、四角いスイカのお話の続きです。

 そもそも「スイカ」というくだものがもっている圧倒的な特徴、それは。

「でかくてまるい」

はい。この点、他の農作物の追随をみません。私が子どもだったころには「でかくてまるい」スイカを、大人たちはネットにまるごと入れて運んでいたっけ。懐かしい情景だなあ。今や核家族化が進み、「でかくてまるい」スイカを丸々一個購入する家庭はまずないですね。たいていカットしてますし、最近は小型のスイカが流行ってます。一家で食べきれるから便利なんだろうな。

 

 カットしたスイカも小玉スイカも、確かにスイカには違いない。でも、それは「でかく

てまるい」というスイカ本来がもっていた圧倒的な特徴はほぼありません。

私の記憶にあるスイカの典型的な風景とは、こんなもの。

 

季節はもちろん夏。場所は海水浴場の砂浜の上。そこにあるのが、敷物の上に安置されたスイカだ。周囲には子どもたち。一人は目隠しをして50センチくらいの棒をもっている。にぎやかな子どもたちの、夏の一風景の真ん中にあるのが、でかくてまるいスイカ。

 つまり「スイカ割り」ですわ。最近、この言葉を聞かなくなりましたし、夏のレジャーの中で海水浴というものがあまり流行らない。今や「スイカ割り」を見たこともない人はかなりおられるのでしょう。

 私の家庭においては、「スイカ割り」は夏のレジャーの花形が海水浴だった時代の、まさにメインイベント。スイカ割りがなければ海水浴場までやってきた甲斐がないというものだ。親戚の子どもを含む数人の小学生が、スイカ割りに興じ、宿題の絵日記にはいつもお決まりの構図の絵が描かれるわけなのだ。

しかし、これをサポートする大人たちにとっても、いろいろと面倒な準備が必要でしたね。まず「スイカ割り」にもルールというものがなければいけない。まずスイカを割る棒は毎年共通のものを「公式スティック」として持参する。そして目かくしをしたプレイヤーがスタートする前に何回転するか、また外野にいる者はどのような声掛けを、どのタイミングで何度おこなうのか、などという取り決めも必要。(余談ですが、「スイカ割り公式ルール」なるものがあるらしい。「最初の回転方向は右回り、回転数は5回と三分の二回転とする」とかね。あの当時はそんなことは知らないから、ローカルルールが無数に存在したのです。)

 …なんですが、結局わが家の「スイカ割り」は、口々にめちゃくちゃなことを教える子どもたちに囲まれて、目隠しをした少年が棒を何度か振り下ろしているうちにスイカに当たって競技終了、即座にスイカの破片を奪い合いむさぼり食う、という混乱した状況を改善できないままで、子どもたちはやがて大人になって「スイカ割り」という行事は完全に過去のものになってしまったのでした。

 こんなふうに昔の思い出を書いているとなんかなつかしくやるせない気持ちになりますねえ。私が提唱した「歳の数だけ回れ」というルールを実行したら全員ふらふらになって競技中断になったなあ。そんな様子を、周囲の海水浴客はけっこう喜んで注目してくれてたよ。終了後の「スイカ頒布」は喜んでもらえたし。現在、わが国のどこかでこんな光景を見ることはできるのでしょうか。

さて、美化されがちな思い出の中でも、あの「でかくてまるい」スイカを海水浴場まで運ぶことは大変でしたねえ。なにしろまるいからごろごろころがるのです。しかも重い。しかもすぐに割れる。すでに割れたスイカをスイカ割りに使うなんて無理だし。

でかくてまるい。そしてすぐ割れる。この面倒くさいスイカの特徴は、スイカ割りよりずっと以前の、農業者から消費者に手渡されるまで、つまり流通の段階で、長年にわたって人々を悩ませてきたのです。

 そこで人類はすごいことを思いつきました。「まるくないスイカを作ればいい。」

 四角いスイカの誕生です。

 

あらためて画像を見てみましょう。確かに、これならば転がらないですね。

さて、人はどうやって「四角いスイカ」を開発したか。調べてみました。

もともと「四角いスイカ」という品種はないので、結実から収穫までの間にスイカの実を四角くするしかありません。

まず、まるいスイカの実がまだ小さいうちに、頑丈な四角い箱に入れます。ウリ科の果実は成長がはやいので、すぐに箱いっぱいになります。そしたら箱を少し大きなものに交換。実の成長に合わせて何度も箱を変えていくと、ちゃんと四角いスイカができます。タイミングよく箱を交換する作業には相当な苦労があるそうです。タイミングをはずすとすぐに割れてしまうからね。でもうまくやれば四角いスイカとして出荷できるようになります。高価な商品になってしまうのは、栽培のための人件費のためなのでしょう。

それにしても、このビジュアルはすごい。転がらないという特徴はさておいて、そのシュールな風貌がすごいじゃありませんか。エッジのきいた四角い側面には、ちゃんとあの「ギザギザの縞もよう」がある。これまたすごい。カッコイイ。これはぜひ一個買って、家にかざってみたい。いやいや、こんな珍しいものを家の中に安置しておくのはもったいない。たくさんの人に見せてあげたいものだ。

当時、中学校長だった私は、さっそく購入。(家族にはナイショ)

私は、2つの中学校で校長職を務めました。岡山市立後楽館中学校と岡山市立御南中学校。

それぞれの在職中に、この「四角いスイカ」を手に入れて、同じテーマでお話をしたのでした。

スイカのシーズンには、ちょうどいい機会がありました。それが1学期の終業式。全校生徒と教職員がそろって恒例の「校長先生のお話」を聴く場面です。

私の最後の勤務校(御南中学校)でのその日の様子は、画像が残っていました。これです。

2016年(平成28年)7月19日。岡山市立御南中学校体育館。

若いなあ。いかにも元気そうだなあ。そこに置かれているのが、当時私が購入した四角いスイカだ。この学校は規模が大きく生徒数は約900人。教職員と学校支援ボランティアの地域の方々もあわせると、ざっと1000人の前でしゃべっています。この上機嫌な顔。今見ると少々恥ずかしいぞ。

 私が、この「四角いスイカ」をめぐって、どんなお話をしたか。

 実物を見せながら生徒たちの前で、というライブ状態でお話ししたのは2つの学校で1回ずつでしたが、校長退職後に、いろんな場所で、同じお話を講演させていただく機会があったので、かなりの回数、同じお話をしたことになります。

 「どうですみなさん、このスイカ、珍しいでしょう? 四角いですねえ。」

 これでは単なる見世物小屋だ。見せるだけだったら、1分でおわってしまいます。

 私がお話ししたのは、この「四角いスイカ」の向こう側に見えてくる、まったく別の景色についてでした。

 今まで、だらだらと「この写真(または絵)の、向こう側にある世界を洞察してごらんなさいよ」ということを提案してきたわけですが、それらは全部、これから始まる「四角いスイカ」の向こう側に見えてくる世界へと入り込んでいくためのトレーニング兼イントロダクションだったのですね。

 四角いスイカの向こう側に広がっている世界、その入り口にはひとつの問いかけがありました。2つの中学校の1学期終業式で、四角いスイカの実物を見せながら、私が生徒たちに(先生たちにも)問いかけた言葉。それは。

「四角いスイカは、個性的か?」

 これでした。

 はい。次回に続きます。

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