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第14回 さらにもうひとつの「なんか、変」な世界。

2024.03.17

 

読者の皆さま。お久しゅうございます。月2本ペースで快調にとばしていたこの連載エッセイ、年明けごろから月刊ペースになっております。これは私が年甲斐もなく忙しくなったような気がしているためなんですね。たぶん気のせいだと思うけどその原因は、前回すこしご紹介した10数年ぶりのバンド活動。

陽空希衣(ひあきけい)さんという岡山在住のシンガーソングライターのバックバンドです。まだ2度しか人前で演奏したことがない、というか人前に出ることの勇気だけは評価してもらいたい。あれは公開練習ではないのかと言われるぐらいのものですが、当人としては新しい機材を買い込んだりしてやる気満々なのだ。

特筆すべきはリーダーの陽空希衣さんが、過去のトラウマと戦い続ける「サバイバー」を脱して、もはやサバイバーであることを主張する必要のなくなった「スライバー」として講演を何本もこなしている人物だということ。彼女のオリジナル曲はYouTubeで聴けますが、共通テーマは人を元気づけることだと思う。これが私の信条と一致するのですね。

などと言えばカッコいいのだが、全部オリジナル曲だから私のベースが曲全体を破壊するほどでなければ少々間違えてもバレないのだ。これでいいのだ。

5月の連休には倉敷美観地区の「白壁町屋ライブ」に出演予定です。大胆不敵ですねえ。 

さて。ここから本題に入ります。

前回予告の「変なもの」とは、これ。

これが、「アクションかるた」。

間違いなく、読み札と取り札がある「かるた」です。

昭和40年代に発売されたもの。読み札の言葉と、取り札の絵が紡ぎだすこの不思議な世界をご覧いただきたい。確かに、なんか変。

読み札「ねこみをおそうギャング狩り」

昭和40年代には「ギャング」が凶悪な犯罪グループを指す言葉として使われていたらしい。警察はギャングを逮捕するために苦心して張り込みなどを行い、ついにガサ入れの日がきた。その様子を描いたのがこの取り札だ。

この絵、凶悪犯を検挙するガサ入れの図として、とてもまじめに描かれてますね。

でも、なんか変。

ギャングって、こんな和室に布団を敷いて寝ているものなんでしょうか。

真っ赤な布団のガラと枕カバーのフリル。これはギャング自身のチョイスなのか。ギャングってもっと豪華な洋室にラグジュアリーな寝具、なんなら美女の一人ぐらい同衾してるものではないのか。だいたいこの縞模様のパジャマがいけない。ギャングだったらパジャマはだめだ。ここはシルクのガウンなんかでキメるべきじゃないのか。

 この絵を凝視すればするほど、まじめに描きこまれた世界に疑問点が湧き出てきますね。

 では次だ。

読み札「てがらをたてた新人刑事」

どうやら「アクションかるた」の読み札は、「犯罪防止」をコンセプトとしているらしいですね。この新人刑事もそうですが、警察側のてがらというのは犯罪者のアジトに踏み込むことが典型なんでしょうな。

でも、やっぱりなんか変。

目を引くのは真っ赤な座布団だ。座布団があるということはやはりここは和室なんでしょうな。ところが新人刑事は靴を履いているではありませんか。これは非常時だから土足もやむなしということだろうが、よく見れば犯罪者も靴を履いている。そもそも座布団なんか描きこむ必要があったのか。座布団のかどっこから三本の糸が出てるほどのリアリティはどういう必然性によるものなのか。新人刑事のかぶっているハンチングがかっこいいぞ。

次いこう。

読み札「みをほろぼすまやくの害」

この必死の形相の男、「まやく」によって身を滅ぼしているらしいですね。なるほど、髪を振り乱した頬のこけた男が大口をあけて何かを訴えている感じはただごとではない。しかし妙に歯並びがよいねえ。麻薬中毒者って歯がボロボロになっていそうなものだが。そして彼の左手が握っている青い棒はいったいなんだ。これはすでに留置場または刑務所に収監されていることを表しているようだが、こんな鉄格子の間隔の広い牢屋があるのか。これならすぐに出られそうなものだ。これはわが身がほろびつつある彼の悔悟の心情を、細い手首の腕で鉄格子をつかむ情景で象徴していると見た。これは考えすぎか。

続きまして。

読み札「おやのこころ子しらず」

「こヽろ」という表記が時代を感じさせますね。取り札の絵柄は「非行少年」ということですね。喫煙してますからね。しかしこの少年、服装はきわめて整っているじゃないですか。今どき、学生服のボタンはおろか、襟ホックまできちんとかけている学生なんかいませんよ。しかも制帽着用。この異様に煙の多いたばこ以外に何が問題なんですか。わからんなあ。ひょっとして少年の持ち物かな。教科書をバンドで十字にしばってぶら下げるってやつが問題なのかなあ。

と、思ってたら次の札で答えが出ましたよ。

読み札「わるい仲間とあそばぬよう」

ここでいう「わるい仲間」とは右側の2名でしょうね。なにをもって「わるい仲間」を描き分けているか。はい、そうです。「書物をバンドで十字にくくる」というのが、とてつもない不良行為なんですな。しかもそれを肩にかつぐとは。この非行少年も制服制帽を端正に着用しつつも、バンドで束ねた書物を肩にかつぐという、血も涙もない非行に及んでいるわけです。左側のハンサムボーイはそのような輩とは仲間になるなど決してないという決意をその表情からうかがうことができます。少し茶髪のような気もしますが。

そろそろ、読者の皆さまにもこの「アクションかるた」の楽しみ方をご理解いただけたと思います。これは観察力と洞察力、そして感性を磨くためにとても役に立つトレーニングですよ。これなんかどうですか。

読み札「うまく化けたアルセーヌルパン」

 あのねえ。こんな格好で往来を歩いていたら余計に目立ちますよ。うまく化けたって、いったい何に化けたつもりなんですか。これは「むだに化けたアルセーヌルパン」にするべきですね。バックの時計台の雑な描き方は好きですが。

読み札「れっしゃをおそうふくめん強盗」

 これはアメリカ合衆国の西部開拓時代が舞台となっているようですが、この馬にのったふくめん強盗たちはどうやって列車をおそうつもりなんでしょう。馬と列車が競争したらどっちが速いのかなあ。それにしてもこの列車、よく見たら線路を走ってない。小道のような白線、これが線路なのか。それにしても狭すぎる。真っ黒くて力強い感じの蒸気機関車だが、この線路には乗れないでしょう。ひょっとしてすごくうちまたで走ってるのか。

また出ました西部劇ネタ。

読み札「せい部で名髙いモーガン警部」

唐突に登場したモーガン警部。っていったい誰なんだ。バックの赤い躍動的な描きこみも華やかで、これはなかなかの人物らしいですね。この当時の子どもたちは全員「モーガン警部」を知っていて、しかもヒーロー像としてリスペクトしていたのか。それ以上のことはググってみなけりゃわからない。そしたらいきなりわかった。「モーガン警部」は1958年に日本でも放映されたテレビ西部劇なんですね。私はまだ2歳。テレビなんか家にあったら英雄だ。これでモーガン警部の素性はわかり安心しましたが、どうしても気になるのが素手で相手を殴り倒したモーガン警部の左腕だ。多分骨折、よくて脱臼か。握ったゲンコツの向きが反対です。これは早く整形外科にかかったほうがいいですよモーガン警部。

 いかがでしたか。今から20年ほど前にこの「アクションかるた」と出会った私は、「犯罪防止」といういたってまじめなコンセプトを、これまたきわめてまじめに絵画化した世界に魅了されてしまったのです。例えていえば、モーガン警部の時代によくあった、微妙に調律がずれたホンキートンクピアノみないな、明るい不協和音の魅力かな。

 

「ちょっと変」には人を引き付ける不可解な魅力があるんですね。

 もうあと数点、アクションかるたの世界を列挙してみましょう。説明はつけません。読者の皆さまの、観察力と洞察力、そして感性をフル稼働させてご鑑賞くださいね。

いかがでしょうか。

 この「アクションかるた」、飲み会の場に持ち込めば軽く一時間以上笑い続けることができます。お試し希望の方は筆者までご連絡を。

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