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第4回  続・雑談部をつくろう!

2023.07.25

前回は「雑談部」をつくったことをお話ししました。

 

 生徒たちはこの提案を喜び、昼休みや放課後には毎日雑談部活動に勤しんでいたもんです。雑談グループの横を通りかかると「雑談部やってます!」と誇らしげに挨拶してくれます。そこで「おう!がんばれよ。もうすぐ県大会だぞ!」などと意味不明の混ぜ返しをしても彼らは「はい!絶対に勝ちます!」と平然と答えてくれるのです。

 

 確かに「雑談部」が盛り上がってくると、こんな会話が出てきましたね。「うちらの雑談部も、どこかの学校と練習試合したいよなあ。」これには困ってました。

 「そもそも試合ってどうやるの。」「何時間でも延々と続くことが雑談の本質、というから、継続時間を競うとかか?」「5時間ぐらいは楽にいけると思うけど、その間は授業にならんな。」「雑談している者は平等な関係でないといけない、というのもあるから、雑談内容に力の上下が出てきたらそこで失格よね。」「それ、だれが審査するん?」「時間を計るのにも、審判員がおらんとな。」「なーるほど。試合はできるかもしれんけど、審判員がおらんよなあ。」「う~ん。」「う~ん。」

 

 と、いうわけで「雑談部」はあちこちで展開しているけれども、部活動としての戦績みたいな記録は一切残りません。考えてみれば学校の部活動って、その多くが試合で順位が決まるとか、何らかの格付けがあるものです。例外といえば「ボランティア部」みたいな部活動かな。これは他の部活とは違う発想で成り立ってますね。競う相手はいないけれど「社会貢献」という共通点があります。でも「雑談部」にはそういう立派なものは絶対にない。

 

 雑談部が活動したことの成果って、なんだろう。提案した私にも、実はよくわからないんですよ。そもそも、「損にも得にもならない、どうでもいいこと」をお題にする会話ですから。雑談には「立派な成果」なんていうものは必要なんだろうか。

 

 そう。「損にも得にもならない、どうでもいい話題」がゆるーく続いている。ちっとも生産的じゃないけど、なんだか楽しい。そのことだけが「雑談」の成果、みたいなものでしょう。それでいいんだ。

こんな雑談、どうですか。

 

【ある日の昼休み。私と雑談している生徒は中3女子。】

 

生徒「最近、ジブリアニメをテレビでやってますね。先生はジブリアニメで好きなのは何?」

植田「どれもこれも好きじゃな。好きな名場面っていうのがそれぞれにあるし。」

生徒「ほう。どんな場面が好きですか?」

植田「好き、というより『気になって仕方がない』という場面じゃな。」

生徒「ほほーう。それは何ですか?」

植田「天空の城ラピュタ、ていうのがあるじゃろ。そのいよいよ最後の場面で、主人公たち2人が『滅びの呪文』なるものを唱えて、悪者どもを天空の城ごと破壊する場面があるよな。」

生徒「あーあります。これは名場面ですよ。『バルス』がその呪文ですね。」

植田「そうそう。もともとその呪文は一人しか知らないはずなのに、いつの間にか相談して2人同時に大声で唱えている。問題は、その呪文をどうやってもう一人に伝えたか、なんじゃ。」

生徒「なーるほど。うっかり『呪文はバルスよ』なんて言ってしまうと、その場で滅びが始まってしまうわけだし。」

植田「どうやって相談したのかがわからん。考えてたら夜も眠れん。」

生徒「はいはい。わかりました。お答えします。つまり『ドはドーナツのド』作戦です。」

植田「なんじゃそりゃ。」

生徒「つまり3文字それぞれに、頭文字がそれで始まるモノを用意して相手に伝えるんです。」

植田「ははあ。ということは、まずは最初に『バ』で始まるモノが必要なわけじゃな。それってなに?」

生徒「はい…。『バ』?……ええええっと……」

植田「早くも困ってるな。さあさあ、『バ』で始まるモノとは?」

生徒「はい!!それは『ばーちゃん』です。」

植田「うぎゃ。そんなもん、どうやって調達するのだ。」

生徒「ラピュタは広いから、ばーちゃんの一人ぐらいいるはずです。」

植田「うーむそりゃひどい。しかしまあ最初はまけておこうか。次は『ル』だ。しりとりでも『ル』は困るんだぞ。」

生徒「これは『ルパン』しかありませんね。」

植田「もうむちゃくちゃやな。しかし同じジブリ作品からむりやり派遣する手があるかもしれんな。」

生徒「ルパン三世なら何とかして来てくれます。」

植田「もうわかった。『ス』は私に言わせてくれ。それは『酢』だ。酢を1びん用意すればよいのだ。広いラピュタにはな…」

生徒「酢の1びんくらい、当然ありまよね-。」

植田「当然あるな。従って、このふたりが滅びの呪文を共有するには、ばーちゃん1人、ルパン1人、酢を1びん用意したと、こういうわけじゃな、」

生徒「そういうわけです。」

植田「いやーそういうわけだったのか。実にすっきりした。ジブリ作品は奥が深いねえ。」

生徒「はい、さすがジブリ作品ですね。じゃあ、授業行ってきます。」

 

 ごく普通のある日のお昼休み。雑談者は私と生徒1名。でも周囲には数人が楽しそうにこの雑談を聞いていました。本当に、ほんとうに、どうでもいい展開を。

 

この光景をどう評価されますか。校長と生徒が、こんなゆるゆるの会話をしていて、周りの生徒たちはそれをにこにこ笑いながら聴いている。

 これって、かなりに素敵な環境だと思うんだがなあ。

 

 「雰囲気のよい学校」とか「働きやすい職場」とかいうことがよくあるけれど、それって何だろう。いろんな要素が必要なのだろうけれど、そこにいる人一人一人が、さっきみたいな雑談部の活動をゆるゆる~と続けることができていること、そんな空気感がその学校や職場にあること。それによって学校や職場の雰囲気のよさ(家庭、もそこに入りますね)」というものがつくられている、というのが私の説です。

 

 あなたがいま、日々をすごしている環境の中に、ゆるくてまったりした雑談が普通に存在しているのであれば、そこはすごく「過ごしやすい居場所」ですよ、きっと。

 さあ。今日の雑談部を、始めましょうか。

 

 

 

 

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