第31回 2026年5月 八幡浜ミカン研修レポート②|樹勢管理編
2026.06.01
かめっち先生が、Hさんとともに真穴地区のミカン栽培について、ミカン農家のKさんにインタビューをした記録のレポートです。全3回に分けてお届けします。
第2回目は、樹勢管理編です。
樹勢管理の基本的な考え方
K「最も力を割いているのが樹勢管理です。隔年結果は実をならせすぎたときに起きると言われていますが、そこにはかなりの誤解が存在します。重要なのは、十分な花芽を毎年確実に着果させるためには、それと同等の春芽(新芽)が必要となり、そのバランスを各樹ごとに観察していき、そこから様々なヒントを得ながら少しずつ摘花(そのままの流れで摘果)していき、最終的に樹全体としてバランスの良い樹勢にて収穫時期を迎えるように微調整を重ねていく必要があります。」
かめっち「様々なヒントというのを少し具体的に教えていただけますか?」
K「樹齢に応じて解説していくことで、より樹勢が明確になると思いますので、まずは1年生苗木が1年間成長した様子(2〜3年目の春)を見てみましょう。昨年度の成長で、強い枝に関しては1mほど伸長成長していますが、そこで剪定をせずに観察を続けると、昨年の葉から花芽が形成され、花が咲くのが分かるでしょう。そしてこの昨年度伸びた樹勢の強い枝への花の付き方を見ると、花が飛んでいたり、つぼみが小さかったりと、花こそついているものの、いつでも栄養成長に転換する準備ができているのが分かります。こういった枝からもある程度の収量を取っていくために、まだ今の段階では摘花は行いません。」
かめっち「このような強い枝が直花とはいえ花をつけるには何か理由があるのですか?」
K「こういった若い樹に対しては、秋から冬に入る11〜12月あたりから、若干潅水を止めるなどしてストレスをかけることが多いです。もちろんそれまでに安定した栄養成長ができていることが前提条件になりますので、弱っている樹に同じように潅水を止めるようなことをしてはいけません。栄養成長でどんどん大きくなろうとする樹に対しては、乾燥ストレスを与えて、花芽形成に傾くような調整を掛けることで、樹勢が栄養成長一辺倒となるのを防ぎます。」

かめっち「なるほど。このような若芽に関する花芽管理については、どのような順序で進めていくのですか?」
K「では先ほど話した花芽が飛び飛びだが存在していて、そのさらに下の基部に近いところから花芽がいくつか生じているような状態についてどういった管理をしていくか説明しましょう。この枝においては、できれば懐に着いた花は結実させて収穫までこぎつけたいです。よって、この5月初旬の段階で先端の未成熟の花を摘んでしまうことは避けていきます。これは先ほども説明しましたが、このようないつでも栄養成長に100%養分を振り向ける準備ができている枝に対して、栄養成長70に対して生殖成長30程度に押しとどめてくれている花を摘むことで、その懐のホルモンバランスすらも栄養成長に傾けてしまう恐れがあるからです。」
かめっち「なるほど、幼木においては、摘花の効果がかなり広い範囲に波及するのが良く分かりました。一方で、このような未成熟な花を最後まで持っておいても良い果実にはならないと思うのですが、この花はいつ頃摘花するのですか?」
K「こういった花は摘まなくても生理落下することがほとんどです。一方で、勢いの良い新芽が出てくるのは、長くても6月初旬あたりまでと思いますので、そこまでは花をつけておくことで懐部分のホルモンバランスが生殖状態でいられるように止めておきます。ここで重要なのが、樹の中の他の部分では確実に新芽が出ていることを確認することです。全く新芽がなく花ばかり出ているような場合(若木ではほとんどそういったことは起こりません)は、花芽を減らして新芽が出るように促す必要があります。幼木については、基本的に上部から新芽が吹くことが多いので、花がせっかく咲いたところからはガンガン収穫していきたいところです。」
かめっち「教科書的には、3年目までは花はすべて摘むと習うのですが、そんな若いうちから収穫してしまって大丈夫なのでしょうか?」
K「新芽さえ十分量吹いていれば、それらがしっかり仕事をこなしてくれるので問題ありません。それゆえに継続的な樹勢管理が最も大事になります。4年目以降の枝においては、3年目ほど絶妙な樹勢バランスの上に成立する枝は徐々に減ってきますので、基本的には懐付近の充実した花を大事にしながら、先端部分の新芽と花芽とのバランスを整えて、収穫量(生殖成長)と成長(栄養成長)とを両立できるよう養生していくことが肝心となります。」
無剪定栽培という選択
H「どの樹形を見ても、非常にコンパクトに収まっており、内向枝などをきれいに剪定しているように見えますが、冬場の整枝剪定についてはどのように行っているのですか?」
K「マルドリ栽培を始めてから、剪定はほとんど行わなくなりました。自分も10年以上前までは日当たりを整えながら開心型の樹形を目指して剪定をしていましたが、通年の気候が安定しなくなり、時期ごとに起こるはずの気象イベント(梅雨・3日に一度の降雨など)が全く期待できなくなってきたことを境に、剪定という技術そのものが、安定した気象条件を暗に前提としていたことに気が付きました。つまり、このような不安定な状況下で、みすみす新芽を除去して成長のチャンスを奪ったり、同じく花芽を除去した後に思わぬ高温で花芽がすべて流れてしまえば、隔年結果一直線となりますので、自分はそういったギャンブル性の高い決めつけ的な栽培管理からは一線を引き、その時その時で樹体がどのようなホルモンバランスでいるのかを観察・判断して、最終的にどのように実をつけてほしいかという理想像に近づけるために新芽と花芽のバランスを作っていく、という方針に切り替えました。」
かめっち「それは非常に理に適った方法だと思います。一方で、そうなっていくと摘花・摘果作業が非常に大変になるのではないかと思うのですが、どのように作業を効率化していくと、全ての樹体に満足のいく摘花・摘果を施せるのでしょうか?」
K「まずは開花後すぐ(4月10日ごろ)のつぼみの段階で、あまりにも花芽が多く、ほとんど新芽が吹いていないような樹に対して摘花を行い、新芽が5月頭ごろまでに吹いてくるように促します。逆に、花芽がほとんど付いていないように見える樹体については、意外と目につかないだけで花芽は存在しますので、新芽を欠くことで今ある花芽が確実に着果するように樹勢を生殖成長の方に引っ張る作業を施します。ここからは、1周目に処理を施したものほどバランスが崩れていないものの、やや調整が必要と判断した樹木のホルモンバランスを調整していきます。いわば医療のトリアージのようなことを行っていきます。」
H「早いうちに1周目を済ませるのは、その年の栄養成長なり生殖成長なりが植物体内で明確に決まってしまう(ホルモンバランスが如実になる)前にバランスを矯正する、という理解で正しいでしょうか?」
K「その通りです。例えばほとんど新芽が吹いていないところでは、摘花は早ければ早いほど新芽の回復が早くなり、その樹体のホルモンバランスが整いやすくなります。近年は本当に気象条件が不安定なので、どちらかといえば花は流れやすい傾向にあります。よって最近は花を多めに残す戦略を取りながら、何周も摘果を微調整することで、最終的な果実収量と新芽成長のバランスを整えていきます。」
かめっち「基本的に結果枝からは翌年花が咲くことはないと思うのですが、反収7tともなると、2年連続で同じ枝から花が咲く、ということも起こりうるのですか?」
K「それは基本的には厳しいですが、かなり年数がたって下垂し切った枝からは、何年か続けて花が咲いているような現象を確認しています。そして、そのような下垂枝には非常に品質の高い果実が着果しますので、そういった年季の入ったベテラン枝が高品質・高収量の礎を築いている、という見方は間違いないと思います。」
H「つまり、ほぼ無剪定で、上部に実を着けることで枝が下垂していき、その上から新芽が出てくるので、枝と枝の距離感が適正に保たれ、下垂し切って地面についてしまうような枝はさすがに切除するものの、それらも釣り上げるなどしながらできる限り収穫に回せる花は実にしていこうという戦略と理解しました。初期段階でしっかりと主枝候補を左右に誘引して形を作ることで、内向枝に見えていた枝すらも順方向に下垂する枝へと変化していくというのは実に面白いですね。」
K「結局、剪定のような人間の思い込みではなく、植物が判断して作った枝を良い方向にもっていくことで、3年目から盛園レベルの収量を得られ、しかも剪定をしていなくても、あたかも開心型のように樹の真ん中部分に空洞が生じ、そこから日が十分に差し込むと同時に、木漏れ日も中に入っていく方が良いと思います。」
かめっち「近年の夏場における異常な高温を考えても、直射を浴びないところに枝を置いていく戦略は理に適っていますね。実もそうですが、葉の焼けが近年本当にひどいです。」
K「果実についても、たとえ先端についた花でも、意外と下垂する中で枝の中に隠れて直射を避けられるということもあります。あまりに直射が激しいものは摘果してしまうこともあります。」

H「葉果比はどれくらいなのですか?一般的には20〜25:1と言われていますが。」
K「うちは以前計測したときに13:1という比率でした。これもなかなか信じてもらえないのですが、初期状態から春芽と花芽とをきちんとバランスさせることで、葉果比はかなり下げることができると思います。やはり剪定で花を減らしてしまうやり方は、むしろ花が流れやすくなっている今の気象条件とはマッチしていないのがここでも見えてきます。」
H「そこについては桃でも非常に類似した議論がなされています。私は大藤流という弱剪定グループの提唱する通年栽培管理指針が非常に理に適っていると感じています。その方法が、まさしく冬季剪定をかなり控えて、花芽管理に主眼を置きながら、葉芽を活かしていくというものです。岡山県は、どうしても収穫後の新梢の二次伸長が旺盛になる傾向がみられるため、そういった余計な栄養成長分を、幹や根域に返すようにするための秋季整枝・剪定は行いつつ、基本を摘蕾と摘果の反復による樹勢管理に置いている点は、Kさんの方針とほぼ同じだと感じています。こういった観察を重んじる手法を取ることで、見違えるような果実品質を達成することができます。」
K「非常に良く分かります。この手法を取り入れてからというもの、収穫になると果実の艶が日に日に増してくるのが良く分かります。収量も重要ですが、むしろこの高品質な果実・秀品率の増加という点にこそ、私の技術の誇りがあります。」
かめっち「自分の読んだ論文に、春芽の光合成能力は、夏芽や秋芽の光合成能力と比較して非常に高いような内容を確認した記憶があります。おそらく葉果比の低さや、最終的な高品質果実の増産にも、このあたりの要因が大きくかかわってきていますね。この酷暑下においても、かなりの高収量・高品質を維持できているのですか?」
K「もちろん、焼けていない樹はないと言っていいほどに樹へのダメージは大きいです。ただ、そのあたりはマルドリによる徹底的な潅水サポートによる力が大きいです。従来の気象では、3日に1回は降雨がほぼ確実に見込めたので、マルドリが無くても何とか水分保持ができたものの、最近は全く雨が降らないこともざらになってきました。これは、従来の夏場にやや乾燥ストレスを与えることで、その時期に糖分を蓄積し、秋になってさらに糖分を割り増す、といった戦略が完全に時代遅れになったことを意味しており、むしろ夏場は植物が生き延びるように養生してあげる必要がある時期なのです。」
かめっち「マルドリ技術に加えて、農業IoT機器もかなり導入していただいているようですが、実際に役に立っている実感はあるのでしょうか?」
K「やはりデータだけで半自動化、というのは気が早いというのが正直な感想ではありますが、その反面、土壌水分計のような機器のデータはほぼ100%データを信用して潅水システムを動かしています。土壌のデータを通じて、人間が表面だけ観察している状態が、いかに実際の土壌状態を反映していないかがよく理解できました。同様に、果実の肥大度センサーもものすごく面白い結果を算出してくれています。乾燥している日は昼間から夕方にかけて、果実はどんどん縮小していき、その縮小はペースこそ落ちながらも夜の9時ごろまで続き、深夜12時頃にやっと果実肥大が始まる、といった状況らしいです。」
かめっち「そのように一部でも使えるデータが存在するのであれば導入していただいた甲斐があるというものですね。少し話が変わるのですが、最近夜を早く迎えることができる東向き斜面が果実栽培には最適だという話が良くされていますが、これについてはどのように感じていますか?」
K「この酷暑に関して言えば、西向き斜面の方がむしろ焼けは少ないです。東向き斜面だと、結局日が沈むわけではないので、常に高温条件にさらされ続ける時間が長くなります。西向きであれば、まだ朝の気温が上がりきっていない状況では日が当たらないので、高温障害=焼けという意味においては東向き斜面の方が焼けのリスクが大きい実感があります。」
かめっち「なるほど、それは現場だからこそ感じることができる貴重なご意見ですね。」
K「新芽の重要性が最も理解できるのが、新芽をウサギに食べられてしまった3年生の樹と、健全に育った3年生の樹との生育の差です。このような生育差を生むほどの力が、新芽にはあるということの証左です。」
かめっち「Kさんの栽培をにわかには受け入れられない農家さんのためにも、Kさんの樹が出来上がるまでの毎日の写真をタイムラプス化して、その生育変化を可視化してあげたら良いですね。」
H「どの木を見ても、非常に新芽が落ち着いており、ほぼ茎の実が伸びていて、葉が小さい状態の新芽が少ないのが印象的です。これはいわゆるオーキシン優勢の新芽なのだと思います。」
K「Hさんの言っているような新芽は、私の園地では通路側に発生することが多いです。その理由は、通路側は樹体の状況に依らず、通路を確保するために新芽を落とさなければいけない事情があるからです。これは、人間の都合による強めの剪定が、植物の反発を促し、結果的に葉の品質の低下にも寄与する可能性を示唆しています。」
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)