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第30回 2026年5月 八幡浜ミカン研修レポート①|防除・施肥・苗木編

2026.05.25

かめっち先生が、Hさんとともに真穴地区のミカン栽培について、ミカン農家のKさんにインタビューをした記録のレポートです。全3回に分けてお届けします。

第1回目は、防除・施肥・苗木編です。

防除について

K「現状、真穴地区では20%ぐらいの農家がマルドリ栽培を実践しており、防除はスプリンクラーによる共同防除がメインとなり、マシンオイル散布やそれ以外で個々人が気になっているポイントの散布は各個人が実施する形を取っています。」

H「防除する際の薬剤などはどのように決定しているのですか?」

K「基本的には共同選果組合の役員などがその時々の状況を判断して決定しています。この地区はスリップス(収穫前時期に発生)とカメムシ(通年で発生)の被害が大きいので、そのあたりに対する防除をメインに据えています。」

H「カミキリムシやダニ類はいかがですか?」

K「カミキリムシは、以前はダントツなどを年に5〜6回散布しなければならないほどの強敵でしたが、アクセルフロアブルという薬剤を使うようになってから、ほぼ根絶やし状態にすることができています。ハダニについても、以前は1月に防除を行うことで、次のピークが4〜5月というダニが非常に成長しやすい時期となってしまう問題があったのですが、マシン防除を3月に遅らせることで、次のダニ発生ピークが7月以降の猛暑時期と重なり、ダニの増殖ペースが落ちることに気が付きました。」

H「サビダニは面従いると思いますが、そのあたりはいかがですか?」

K「サビダニに対しては、基本防除以外の追加防除が必要なほど湧いた時は別途対処しますが、そこまでひどい問題には現状なっていないという認識です。」

H「自分の知り合いに、佐賀県の有機篤農家のTさんという方がいますが、彼の実践経験によれば、一般には混合散布は禁止されているマシンオイルとボルドー液との混合散布はそこまで薬害をもたらさないということらしいです。もちろん何か起きた場合には実践した本人が責任を持ってほしいという前提の上ですが、自分はそれに倣って2つを混合して散布しています。」

K「それができると非常に防除は楽になるので良いですね。」

施肥について

かめっち「施肥についても教えていただけますか?」

K「現状、7割を手散布、残り3割をドリップ液に混ぜる形で散布しています。肥料の内容はオーソドックスなNPKがメインとなり、乾燥ストレスをかけたいときは、肥料も同時に止まるようなイメージです。」

かめっち「カルシウムやマグネシウムは散布しないのですか?」

K「マグネシウムは成長期(4〜6月)の光合成をサポートするといわれていますが、液肥では吸収が遅く、特にカリウムとの競合に負けてしまうことが多い印象を持っています。ゆえにカルシウムとマグネシウムは葉面散布を主とし、確実に効かせたいタイミングで吸収してくれるように工夫しています。」

かめっち「手散布が依然と7割を占めているのはなぜですか?」

K「ドリップ潅水は1日に1mm程度と、そこまでじゃぶじゃぶ水を与えているわけではないため、液肥を通じて養分を与えるだけだと、根からの養分吸収が間に合いません。だいたい必要な養分を逆算して、根が焼けない程度の液肥濃度を通じたドリップ潅水量で施肥できる養分を差し引くと、どうしても7割程度は不足してしまうという感じです。その一方で、現在はさらなる省力化に向けてドローンを用いた肥料散布を考えています。農薬のドローン散布はドローンの要件と農薬の形状とのミスマッチが大きく、なかなか難しい状況なのですが、肥料はあらゆるタイプのものがドローンとの親和性が高いので、ドローン操作がうまい人間が遠隔で施肥を行える環境が理想的です。現状でも、ドローンを通じたスプリンクラーメンテナンスなどは始めており、かなりの労働を削減することができています。」

H「松山の農家さんから醤油ガラを散布すると旨味やコクが増す、といった話を聞いたことがありますが、そういった工夫はされているのですか?」

K「今のところアミノ酸肥料を与えるような設計にはしていませんが、そういった食味向上の話は非常に関心があります。」

H「自分は、パルサーインターナショナルという企業が開発しているアミノ酸肥料が非常に良いと聞いています。実際桃の栽培などでも利用され始めていて、確かな食味改善効果を実感している農業者が多くいます。社長がブラジルに出向いてイワシなどのアミノ酸を調合して生成した力作となっているので、このオルガミンはぜひ使ってみてほしいです。まだ柑橘で本格的に使用している人はいないはずなので、Kさんにもぜひ利用していただけたら面白いのではないでしょうか。」

K「自分の時代にはアミノ酸をじかに散布しても意味がないと思っていました。」

H「昔は確かにそういわれていましたが、今は根がアミノ酸トランスポーターを通じてアミノ酸を吸収していることが分かったので、量的にどれくらいの効果があるかは未知数ですが、使ってみる価値はあると思います。ちなみに今植えている苗木の培養土はどのような配合でなさっているのですか?」

苗木について

K「今はピートモス、バーミキュライト、炭などを配合しています。あらかじめ1月ごろに穴を掘っておき、それと同時に培養土も入れることで3月の定植までに土地と土とをなじませます。これによって、微生物などの働きもあるのか、かなり活着が早くなり、新芽が出やすくなるように思います。」

H「定植の時に根は切るのですか?」

K「特に根を切ることはありません。しっかりとほぐして横に広がるようにしてから植えます。」

H「苗木はどこから購入しているのですか?ちなみに自分は愛媛県の業者さんから購入しています。」

K「この地域は昔から福岡の田主丸の業者さんとの交流が深いので、そこからほとんど購入しています。」

かめっち「品種によっては宮川早生以上に隔年結果性が強いものもあると思いますが、そのような品種も同様の花芽管理を行えば隔年結果は免れられるのでしょうか?」

K「今、園地では晴れ姫以外のほとんどすべての日本にある柑橘品種を数本単位で栽培していますが、その中でも川田温州や姫小春などは隔年結果性が著しいです。こういった品種は、もう樹体自身がその方が安定すると主張しているものと受け止めて、むしろその方向を活かした栽培の仕方を工夫する方向で考えています。具体的には、1年生苗木を2本20cm間隔で定植し、2年目の十分成長した苗木に冬季の乾燥ストレスを与え、直花をたくさんつけるように仕向け、片方の枝は完全に摘花してしまい、もう片方はすべて花を残す、といったはっきりとした栄養と生殖の偏りを与え、これを残りの年数継続していきます。」

H「そのような近い距離で定植すると、苗木同士はどうなってしまうのですか?」

K「苗木はヒリュウ台なので、やや弱樹勢気味で成長していき、最終的に一つの樹のようにふるまうよう誘引していきます。その後2つの樹が合体した後は、花芽と新梢があたかも毎年バランスしているようになり、その後の細かい管理がかなり楽になるのではないかと予測しています。一応川田温州でうまくいっている例があるので、姫小春では大きく試していきたいです。」

かめっち「樹間はどれくらい空けて植えているのですか?」

K「だいたい2m間隔で定植を行いますが、盛園化が進むと、いかにコンパクトにまとまったとしても、やや狭い感じになることが多いので、その都度様子を見て間引きすることも多いです。」

かめっち「おすすめの品種はありますか?」

K「味でいえば甘平と姫小春が一つ頭抜けている印象です。最も有名な紅マドンナは1月収穫なので、2〜3月に収穫される大御所の中晩柑との競合がないことで、今の立ち位置にいることができていると思います。紅プリンセスも3月末の収穫で、他に競合する果実が少ないのでうまくいっています。その一方で、媛小春は黄金柑ときよみの掛け合わせ品種ですが、あまり大々的に県からのバックアップを受けていないにもかかわらず、ものすごい勢いで口コミによる人気を獲得していった地力があります。隔年結果性があるという扱いづらさこそあれど、耐病性も悪くなく、かなり優れた品種だと思います。」

H「自分は黄金柑を栽培していますが、媛小春はかなり早い段階で岩木山の試験場で試食させてもらったことがあります。その時から非常に食味の優れた品種だと目はつけていましたが、やはりそうなったのですね。」

かめっち「知人から紅マドンナや甘平は育てにくい、と聞いたことがありますが、具体的にどのような育てにくさなのでしょうか?」

K「紅マドンナはハウスさえあればクラッキングを起こすことはまずないので、そこまで育てにくいと思ったことはありません。隔年結果性も低く、樹勢も悪くないのでむしろ育てやすいとは思いますが、ハウスが前提となる点がネックかもしれません。甘平は樹勢こそ悪くないものの、クラッキングが激しすぎます。食味はとびぬけてよいものの、食味の良さに比例してクラッキングが起こる比率も上がります。ひどい時には収穫までにすべての果実でクラッキングを起こして全滅してしまうということすらあります。かといって潅水を徹底すると、濃縮感の低い美味しくない甘平が生まれてくるというジレンマがあります。」

かめっち「長野県のナガノパープルが非常に似たような状況です。ナガノパープルの場合、収穫直前あたりに一斉にクラッキングが起きますが、甘平はどのくらいの時期にクラッキングが頻発するのですか?」

K「いつでもクラッキングが発生している肌感です。しかも裂け方も縦方向や横方向と様々で、どれくらいの土壌含水率だと膨張率(収縮率)はどうなるかや、どのくらいの時期が最も果皮が弱くなるか、といったデータを集めていき、成長ステージごとの水分管理方法を見つけていく必要があります。」

H「桃の核割れも少し似ています。要因は主に二つあり、一つは新芽との養分競合の結果、核が未成熟となり割れてしまうというもので、もう一つが栄養成長期の果実肥大スピードに対して核の成長スピードが追い付かず、張力に耐えられずに割れてしまう、というものです。これらは水分管理と同時に、窒素管理がかなり重要になります。」

かめっち「果皮を薄い状態でも応力に対して強く仕上げるには、ホウ素とカルシウムが重要になると思います。どういった時期に葉面散布をすればよいか、という観点で窒素肥料・水分管理と共に、果実膨張のモニタリングと併せて研究していくと面白そうですね。」

H「こういったエース格の中晩柑の単価は良いのですか?」

K「現在、ミカンがキロ単価500円くらいとなり、手取りも350円にはなる状況なのですが、紅マドンナ・甘平・媛小春あたりはキロ単価1100円にもなります。収量が全く違うのでそのまま比較はできませんが、これらを毎年収量を取れるようになれば、かなり計算が立つようなものです。」

H「それは素晴らしいですね。大体桃のキロ単価がそれぐらいのイメージです。八幡浜市ではそれでも宮川早生と南柑20号がメインとなっているのですか?」

K「愛媛県では、八幡浜市以外ではほとんど中晩柑にシフトしています。おそらく全国レベルで見ても普通温州みかん一本で生計をたてられるのは八幡浜くらいだと思います。今回媛小春を定植したのも、せっかく長期バイトを雇うのなら、11月初旬から12月中旬で終わってしまう普通温州だけでなく、その続きで1月終わりまで収穫できるものを用意したかったというのもあります。」

かめっち「なるほど。ちなみに収穫期をなるべく早くすることも、次年度の花芽充実にとって大切な要素だと理解していますが、色づきはどのような状況なのですか?」

K「色が着き始める時期(ベレゾン期)は従来と変わらないのですが、そこからの夜間の低温要求を満たすことができていないせいか、色付きのペースが異常に遅いです。果実は成熟したタイミングでパッと収穫してしまうのが正品率を上げる最も基本的なところなのですが、いくら味が十分なものになっていても、緑色の部分がかなり残っている状態で収穫するわけにもいかず、そのまま樹上での着色を待つ間に皮が浮いてきたり、生傷が増えたりと品質の低下が重なっていくイメージです。これまでは11月1日くらいから収穫できていたのですが、今は10日あたりから収穫が開始ということが多いです。」

H「非常に良く分かります。うちもなかなか色が着かない印象が強いです。」

かめっち「そういった高温条件でも着色するような酵素を持つ品種の可能性はあるのですか?」

H「そこは分かりませんが、可能性はあると思います。一方で品種が多くなりすぎると、本質を見失う傾向があります。桃のように栽培期間が短い種は品種をいくつも試す意味もありますが、ブドウや柑橘のような栽培期間が長い種は、もう品種を分散させるよりも一つの品質を追求した方が良い、という教えもあるので、近年の品種を必要以上にばらつかせる傾向はあまりよくないのではと感じています。」

かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)

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