第27回 「令和の大風邪」の顛末、そして新しい嗜好について
2025.12.11
ざっと1か月前のこと。
なんだかのどが痛いな、これは悪くすると熱が出るパターンだ。
と、思っていたら、出ましたでました。
発熱開始。いきなり、39℃。
これはいかん。とりあえず熱だけは下げておこうか、と手持ちの解熱剤をのむ。
するとどうだ。どーんと下がって35.8℃。
私の平熱は人並みなので、これは少し下がりすぎではないか。解熱剤よ、ええかげんにしときたまえよ。
で、そのままなんとなく収まるのかと思ってたら、37℃台の微熱が続くのです。
喉が焼けるように痛む。これは当節話題の新型コロナの最新株に違いない。
そう覚悟して、病院に行きましたよ。
インフルエンザなのかもしれない。いや、溶連菌とかアデノウイルスとか、恐ろしいバイキンが、私のこのひよわな身体の中で大暴れしているのかもしれない。
病院に着いたら駐車場で待機。
鼻の穴に棒を突っ込んで、なにやら調べるのでしょう。
そして、しばらくしてから、こういうんですよね。
「出ました。新型コロナオミクロン株に感染です。当分、社会生活はおやすみください。チーン。」
ところが。
「コロナ、インフルエンザともに陰性です。病室で診察しましょう。」
あれれ。担当は長年お世話になっているベテランの先生だ。先生はこう言われた。
「このまま熱が下がれば、通常の感冒ということです。」
全く釈然としないけど、そのまま帰宅。
ところが、この状態(喉の痛み、咳、37℃台の微熱)はそこから2週間ほど続いたのです。これは、どういうことでありましょうか。医療機関での検査に誤判定なんてあるのかな。
考えたくはないけど、これこそ「歳のせい」としか考えられない。けがをしても病気になっても、年寄りは治りにくいという、まさにそれなのか。
それにしても、ほんとうに苦しかったのです。新型コロナには2年前にやられたけど、十分それ以上のしんどさだ。
これはいくら言葉で表現したってわかってもらえないと思う。石碑に「令和の大風邪の記録」と彫って、庭に飾っておきたいと本気で思ったくらい。
よく大水害のあとに「ここまで水がきた」というプレートがお城の石垣なんかに取り付けられたりしますね。あんな感じで「あのときのしんどさは、この線まできた」というプレートもはめておきたい。
しんどさを示す線というのは設定がむずかしいだろうが、それは適当なとこにあればいいんだ。とにかくあの苦しさを忘れて不健康な生活をしちゃあいけんよ、という警告を「石碑」という古典的な方法で可視化しておきたいと思ったのです。
いやほんとに健康第一ですね皆さん。
このお話は「やっと風邪が治りました」という、たいへん物足らない駄文で終わりそうなんですが、ひとつだけ皆さまにお伝えしたいことがあるのです。それは。
食べ物の好みが、変わったかもしれない。
または、新たな嗜好が私の味覚に追加されたのか。
これは「令和の大風邪」のせいかどうかわからないのですが、風邪がなおったとたんに、私の味覚がどう変わったかと言うとですね。
甘いものが好きになっている。
私は青年期から辛党で、特に「趣味は?」と聞かれたら「暴飲暴食です」と臆面もなく答えていた成人以後は「甘いもの」は全く眼中になかったのです。ところが、今回の大風邪のあいだ、1週間以上禁酒するという、人生に何度もなかったような経過のあと、ふと気づいたのであります。
甘いものって、意外といいやつだ。
こいつに、久しぶりに会いたいのかも。いやいや、ねんごろにお付き合いしてもいい。
ときはちょうど、12月になったばかり。この時期にお付き合いしたいと思った甘いものとはなんでしょう。

はい。「シュトーレン」であります。
年末になったら家族がよろこんでたべていた、ドイツ伝統の焼き菓子です。
粉砂糖がまぶしてあったりして、いかにも甘そう。中身はラム酒に漬けこんだドライフルーツがたっぷりはいっていて大人の甘さってやつですかな。確かに酒飲みにも好まれる焼き菓子なのかもしれない。
この世には「ある食べ物が、急にたべたくなる」という現象がありますね。まさにそれ。令和の大風邪でへろへろになった身体は、思いがけないことに「キンキンに冷えた生ビール」じゃなくて、「ラムの香りゆたかなドライフルーツがどっさり入ったシュトーレンを5ミリの厚さにスライスしたやつを、コーヒーとともに食す」ことを欲していたのであります。
よしわかった。シュトーレンだ。しかも、上等なやつを食べなくちゃあ、この令和の大風邪は完全に終息したとは言えないだろう。
それにしても、上物のシュトーレンって、どこに売ってるのか。
お酒にはそれなりに詳しい私は、お菓子のことなんか何も知っちゃいません。しばらく途方にくれたのですが、これは岡山市内で探すより、もっとヒット率の高い土地に行くべきだと気づいたのです。
そこで、行ってきましたよ。学生時代をすごした神戸へ。
貧乏学生だった私が知っている神戸はまだ震災前で、再開発も進んでいなかった時代でした。まだまだ適度にほこり臭い昭和の街並みが残っていて、庶民感覚で立ち寄れるパン屋さんがたくさんありましたっけ。私は大袋にはいったパンの耳を10円で買ってごはんにしてましたが。
とりあえず、神戸元町に行きましたよ。
かなり歩き回って探し回って、足が棒になるかと思った。苦労した原因はただひとつ。シュトーレンは11月中には買っておいて、12月になったら少しずつ切ってたべてクリスマスを迎える、というものだったんですね。その日はもう12月7日でした。
これはキリスト教を中心とした文化です。
そんなん知らんがな。私んちは臨済宗妙心寺派じゃ。
しかし、神戸という街は懐が深い。デパ地下に行けば案ずるなかれ。ベーカリーコーナーは真っ赤で、出店者が満を持して「12月になってからシュトーレンをのこのこと買いに来る田舎もん」を待ち受けてくれてましたよ。
おすすめは元町の大丸百貨店。デパ地下のなかでも抜群の品ぞろえ、なかなかお高いお買い物でしたが、小型のものをいくつか購入。今日から家族でいただきます。
これで、令和の大風邪は、完全に殲滅した。
つぎはやっぱり、ビールかな。


……と、思ったら大間違い。
私の、新たな嗜好「甘味」への旅はまだ続くのです。
どこへって???
はい。クリスチャンではない私にとっては、当然の帰結かもしれませんね。それは。
「あんこ」。
この件、次回も引っ張ります。