第20回 梅収穫体験記 後編
2025.12.01
三日目

この日は強い雨のため収穫は中止となり、午前中のみ選果作業を行った。選果におけるポイントは、
①できるだけ早く規格外品を取り除き、正規品の分類をサポートすること
②選果・梱包時に南高梅と受粉樹を混ぜないこと
③送り先(JA・贈答・農総研)ごとのコンテナ選びを間違えないこと
の3点である。
以前、Y君が「梅は最終的には加工用がほとんどなのに、傷の有無だけで細かく規格が分かれすぎている。このふるい分けに半年近くかけるのは効率が悪い」と話してくれたことがあったが、確かにBとCで細かく価格差をつけるほどの違いは、実際に見てみると大きくは感じられなかった。
本年度は品質の悪さから例年にないほど規格外品が多く(体感で7割ほど)、その規格外品の中でもさらに2段階に分かれる事態となっていた。そこで、規格外品をラインから除去し、規格に沿って選別する際に最も効率の良い方法を模索した結果、「片方の手に1果ずつ持ち、両手で交互に作業する」方法が最もスピードが出ると分かった。結局、人間もコンピュータも同じで、プログラムをいかにシンプルにするかが、エラーなく継続できるポイントだと痛感した。
選果という基本作業の中には、「コンテナが7割ほど溜まったら計量する」「選果台の果実が減ってきたら新しい果実を補充する」「コンテナに規格ラベルを貼る」といった複数のタスクが並行して存在しており、それらを自分の頭の中で処理しながら作業している感覚があった。収穫の際にも痛みの大きい果実が多いとは思っていたが、選果になるとその現実がより明確になり、一連の作業を通して理解が深まることの重要性も実感した。
その夜、圃場担当メンバーと現場の課題を出し合う時間があった。最も大きな課題として挙がったのは、「安全性への意識欠如」であった。これは自分自身もあまり意識していなかった点だが、工業系の現場経験が長いTさんは「これほどリスクの高い仕事で、しかも低給与なのだから、最低限安全性は経営側が保証すべき。初心者に傾斜地で10段近い脚立作業をさせるのは危険すぎる。農業に人を増やしたいなら意識改革が必須」と指摘していた。他産業の現場を知る人の意見は非常に重要で、今後の参考にしたいと思った。
またYさんからは「いま現場を仕切っているのがバイトのTさんという状況が危うい。本来、現場監督は農場主体が行うべきで、部外者に任せているのは大きな課題だ」との指摘もあった。確かに、現場メンバーに作業の流れや場所を質問できない状況は厳しい。
H君は「自分は職人的な作業も多く担当しているが、チェーンソーやジグソーなどのメンテナンスを園主側が理解していないのは問題。農業は機械依存が大きい産業なのだから、農家自身も一定の機械操作・修理ができないといけない」と話していた。
こうした議論を通じて再認識したのは、農業現場にもHACCP的視点が不可欠であり、その代表例がGAPであるということだ。労働者の安全を守り、新たな人材が参入しやすい産業をつくるうえで、安全体制の整備は第一歩だ。また、いわゆる「百姓」といわれるジェネラリスト的能力がやはり農家に求められるということも理解でき、今後意識していきたいと思った。
四日目
この日も午前中は梅拾い、その後は青梅の収穫を行った。梅拾いでは、まだ自分の動くべきルートが明確でなく、どこを拾うべきか迷う場面が多かったが、Tさんが「人のいないところに進むのが定石。三日間で、どこに梅が溜まりやすいかは把握できたはずだから、他のメンバーが取っていない場所を拾ってくれれば十分貢献になる」と教えてくれ、気持ちが楽になった。
収穫は道沿いの木を中心に行った。ここでもTさんから「導線を妨げる枝は、作業効率の観点から切った方がいい」という意見があった。ただし、枝先が垂れた部分につく果実は、とても大きく肉質も良いものが多く、農家側としては簡単に切りたくない気持ちもわかる。難しい判断だと感じた。
この日の学びは、軽トラックに長い脚立を載せる際の注意点をTさんに教えてもらえたことである。「脚立が横に飛び出して車幅が広がるのは避けたい」「一本足は上にした方が安定する」「ロープで固定する際も、上から押さえるだけでは下にずれ落ちるので、脚立を一周して固定する必要がある」など、基本だが重要なポイントを整理できた。
五日目
この日はクボタとの話し合いのため現場作業はなかった。
六日目

午前は選果、午後は収穫という流れだった。選果は3回目となり、次の行動を意識しながら身体を動かせるようになってきた。また、梅が以前より一粒一粒大きくなってきたことを実感した。
ただし、今回自分が担当したのは規格外の2規格の選別のみで、規格内品の等級(傷・サイズ)による本格的な選別は行っていない。来年もし参加できるなら挑戦してみたい。
ここで規格外の2種を整理しておく。まず「出荷不可(廃棄)」の基準は、
①カビや過熟で組織が軟化したもの
②雹害で果皮の大半が失われるほど深刻なもの
の2点である。
次に、最も安価に出荷される「〇外」は、
①浅い雹害傷が複数あり、果皮の半分〜6割を占める
②深いえぐれ傷が一ヶ所以上ある
という特徴を持つ。特に平地に近い園地では〇外が多い傾向があった。
「外」は、
①浅い雹害傷が2〜4割ほど
②深刻だが「致命的でない」えぐれ傷が1ヶ所ある
という基準で、〇外との比率で園地の秀品率がおおよそ把握できた。
午後の収穫は、これまでの急斜面とは違い、作業しやすい場所であった。斜面での収穫では、脚立の足場の安定確認、脚立を斜面に沿わせて置くこと、はしご側と一本足側をつなぐチェーンを必ずかけることなど、注意点が多い。今回使用した脚立は足を固定するピンが外れやすく、気づかなければ大事故になりかねない状況だった。
選果のときも感じたが、梅が大きくなると収穫かごがすぐいっぱいになり、充実感が増すため、作業が楽しくなる。
最終日
この日は落果梅拾いからスタートした。これまでと違い落下量が非常に多く、午前中の2時間で終わっていた作業が、この日は5時間かかった。気温33度の高温多湿の中、急斜面を梅を運びながら上り下りする作業は極めてハードだった。
このままでは体がもたないため、モノラック付近に梅を集めるネットの再配置、坂の上下を避けるための動線整理、手ぶらで動く係と梅を落とす係の役割分担など、負担を軽減するための工夫が重要だと分かった。
2日前は500kgコンテナ1つで足りていた落果梅が、この日は4つ分も集まった。園主のO君に驚きを伝えると、「最繁期はこんなもんじゃない。拾っているそばから梅が落ちてきて、一日中拾い続けても終わらない」と苦笑いしながら教えてくれた。他のメンバーからも「これから作業がさらにハードになるのに、このタイミングで離脱するのは罪が重いぞ」と半分本気の恨み節を言われ、少し申し訳ない気持ちになった。
午後は落果梅の選別を行った。選別は
①腐敗・軟化のひどいもの、石・虫など異物を除く
というシンプルな内容だった。拾ったときは「ほとんど商品にならないのでは」と思うほど汚れたものが多かったが、選果してみると意外に状態の良い個体も多く、きちんと水洗いすれば十分加工品になると分かった。
1週間通じての所感
まず、季節労働者のメンバーと共同生活・共同作業をしたことで、彼らのサバイブ力の高さと社会性の高さを実感した。3人とも農業機械(フォークリフト、モノラック、チェーンソー)に精通しており、園主がいなくても十分に現場を回せる能力を持っていた。さらに、過去の農作業経験を生かし、常に2手3手先を読んだ行動で、作業効率を最大化する動きが印象的だった。「経験を積む」と「その経験を現場で生かす」は別物であり、そもそも彼らは頭の回転が速い人たちなのだと感じた。
園主のO君もまた、梅が大好きでみなべに移住した変わり者ではあるが、誰に対しても公平で、静かだがユーモアがあり、非常に魅力的な人物だった。筋トレが好きで、「ムキムキ男性は10人に1人は需要があるが、供給は100人に1人だから、競争率的には筋肉があった方が有利」など、ロジカルでコミカルな話をして場を和ませたり、「太っている人ほど筋トレ知識が豊富なことがある」などの皮肉も楽しく語ったりして、メンバーを誰一人取り残さず温かく包むような存在だった。
一方で、農作業の安全意識についてメンバーと意見交換した内容も強く印象に残った。自分は「農業が好き」という立場から、危険な作業をある程度受け入れていたが、他のメンバーは工業現場や建設現場といった高リスクの場所で働いていた経験から、農業現場にこそ安全マニュアル、機械理解、作業リスク一覧、講習が必要だと教えてくれた。
「エネオスで溶接をしていた時は、危険作業はアルバイトには絶対やらせず、安全第一が徹底されていた」「建設現場でも、安全指導から始まる。農業にこそ同じ基準が必要」といった話は非常に重く、そして正しい指摘だと思った。
今後は自分自身も機械理解を深め、農業バイトに来る人たちに対して、危機管理と正しい作業法を伝えられる立場になれるよう努めていきたい。
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)