第19回 梅収穫体験記 前編
2025.11.24
5/31~収穫前日~

ちょうど午後6時頃、下宿先に到着した。この時、寮らしきものが見当たらず、まわりをうろうろしていると、今回の梅収穫メンバーらしき人が声をかけてくれて無事入居することができた。今回宿泊する建物は、O君たちの梅農家が借りている空き家らしく、海沿いの景観の良い場所に立っており、家もそこまで古くなく非常に良い雰囲気だった。
中に入ると、40代半ばくらいの、少し凄みのある長髪で部分的に金髪の男性がすでに到着しており、家の簡単な説明を受けた。かなり不愛想な雰囲気で会話も弾まず、正直この段階では先行きに不安を感じた。
荷ほどきをして少し休んだのちに、キッチンで晩御飯を作って食べていると、その男性が気を遣って話しかけてくれた。「自分は有田で溶接をやりつつ、音楽イベントやアパレル、DJなんかもやっている。梅バイトは4年目で、大体のことは分かるから、何かあれば聞いてくれればいい」と、不愛想ながらも非常にありがたい言葉をくれた。彼はTさんというらしく、現在は奥様と娘さんを下津に残し、この1か月強は梅の収穫に専念するらしい。
「自分は両親とも教員だったが、彼らの窮屈で決めつけるような教育方針には違和感があった。ちょうどその頃読んでいたAKIRAの影響もあって、中2で暴走族に入り、その後プロのダンサーを目指してニューヨークに行った。本物のプロダンサーに出会う機会もあり、そこから音楽の世界にはまり、人を音でどうコントロールするかという実験に興味を持つようになった。音楽を本格的に始めて20年以上経つが、実験を繰り返す中で、客層を見ながらベストの音楽を設計し、相手が気持ちよくなるミックスやテンポ、間の取り方やエフェクトが読めるようになってきた」と、非常に興味深い話を教えてくれた。
また、「現場仕事では農業や建設の現場で色々な方に教えてもらいながら、溶接の国家資格やほぼすべての農業機械の免許を取ってきた。自分はハマったらとことんやりたいし、それが人生を面白くすると思う」とも話していた。特に「北海道の農業は、トウモロコシやカボチャ、山芋で何億も稼ぐ農家(帯広の南)がいる。東京のスーパーの直営農場でも働いたけど、あれは農業というより工業に近い。ほぼ機械で片がつくし、いかに機械を操作できるかが人材の価値になる」という話はとても印象に残った。
音楽の話をさらに詳しく聞くと、「自分は最先端のものが大好きなので、それらをつなぎ合わせて、気づいたら身体を全力で揺らしてしまう状態をつくりたい。自分にとって音楽会場は社会実験と同じ。言語化はできないが、積み重ねた経験をもとに調整すれば、ほぼ想定通りに事が運ぶことが分かった」と言っており、聴覚を通じたマインドコントロールの可能性を感じた。
最新のトレンドについて聞くと、「トレンドは知らないが、ジュークは面白い。四つ打ちではなくテンポを変える技術が多用されていて予測が難しいので、不安感をつくる音楽を作るときに重宝しそう」と語っていた。
下宿先にはDJ機材もあり、今後実際にデモを披露してくれたらうれしいなと思う。
もう一人のYさんは、レゲエやスカといったジャマイカ発祥の音楽が好きなDJで、若い頃はトラック運転手などの現場仕事を色々経験し、28歳でワーホリでオーストラリアへ。そこで小麦やトマトのファームで働いたことから世界と農業の面白さを知り、帰国後はDJをしながら農業を手伝い続けているらしい。その中で、旅人と農業者が仲良くなってもそれっきりで終わってしまうことを残念に思い、また出会える場をつくりたいとの思いからギルド風の宿の経営を志したという。ちょうどその流れで、有田市の知人から「Yにぴったりの宿が売りに出されている」と紹介されて譲ってもらい、今は有田を拠点にしつつ、農閑期(5–9月)は出稼ぎで農業を手伝う生活をしているようだった。
Yさんはとにかく気遣いができて明るく、いつもふざけて周りを盛り上げてくれるお祭り男タイプで、その優しい細やかな心配りには本当に助けられた。最初は緊張していた自分が、最後には楽しくコミュニケーションを取れるようになったのは、Yさんの物腰柔らかい対応のおかげだと思う。
初日
まず朝一番(7時半)に梅の拾いを行った。梅の園地は、落ちた梅を効率的に拾えるよう、斜面全体をネットで覆い、下に落果が集まるような仕組みになっている。しかし木の株元や切り株付近はどうしても梅が滞留するため、それらを下へ流す作業が必要になる。
8人程度のメンバーで梅を拾ったが、初めての作業だったので、どこに梅が溜まり、どうすれば効率的かも分からず、ただ言われた通りに運ぶだけで精一杯だった。

加えて、急傾斜で剪定が行き届いていないという悪条件の中、前のめりの姿勢で坂を登らなければならず体力を消耗した。初日ということもあり、約4haの園地で400キロ程度(コンテナ20杯)にとどまったが、メンタルも体力もかなり削られた。
園主のO君は、「これは本当に序の口。最終的には毎日3トン近い落果拾いに追われる。拾っているそばから落ちてくる状態になる。ただ、その頃には青梅収穫は終わるので、ひたすら拾いが仕事になる」と教えてくれた。今回は序盤でみなべを去るが、次回は終盤まで参加してその光景も見たいと思った。
10時頃からは青梅収穫へ。ネットを敷けていない場所の青梅は選別せず全取りで良いとのことで、サイズに関係なく収穫でき、作業はかなり楽だった。昼休憩を挟み17時で終了。
この日から北海道から来たH君も参戦。彼はスノーボードのオリンピック強化選手に選ばれたり、小樽市の数学・物理でトップ3に入ったりした非常に優秀な青年。レッドブルで学生インターンとして働き、イベントの出店マーケティングを担当していた際にクラブミュージックに心を奪われ退職。DJを目指しつつ現場仕事でスキルを積む旅人的な音楽人生を送っている。
最初はどう接していいか分からなかった。しかし北海道への誇りや、料理・酒など“食”を大事にする姿勢を知るにつれ距離が縮まり、打ち解けることができた。若いのに気遣いもあり、途中からはどんどん失礼な態度を取ってくれるようになって逆に楽になった。
H君のすごさは、Yさん同様“つまみ作りが異様にうまい”点だ。二人はあるものでさっと作る酒のつまみのレベルが高く、特にH君が持ってきてくれた行者にんにくの醤油みりん漬けは格別だった。行者にんにくは北海道の谷あいで雪解け水を吸って育つため香りも栄養も強いらしく、そのおかげか翌日の作業もかなり元気にこなせた。やはり食を大事にすることは生活そのものを改善するのだと実感した。
二日目
この日からスタートが7時になった。梅はほとんど落ちていないため終日青梅収穫。だが急な坂での収穫は危険が大きいと痛感した。この日、10段の脚立で作業していたH君の脚立が倒れ、H君が落下するというアクシデントが起きたが、さすがスノーボーダーという身のこなしで無傷だった。
それでも、チェーンと三脚のみの脚立は危険すぎるし、斜面の梅の木は樹高をもっと調整すべきだと思った。
剪定を見ると、横枝に実がつきやすいため樹冠がかなり広くなっているが、同時に樹高も高く、下枝に光が入らず枯れている枝も多かった。であれば開心型のように横に広げつつ樹高を抑えた方が良いのではないか。樹体を大きくすれば収量は得られるが、作業性を落とし怪我のリスクが高まる点でマイナスが大きい。
ただ横に広げすぎれば作業道を狭めるので、今後の盛園化では
①作業性(特に樹高抑制)
②作業道の確保
の2点を意識して株間と剪定方法を考える必要があると感じた。
収穫は手でもぎ取れるため、両手を交互に使って収穫箱に入れるのが最も効率的だと身をもって理解した。片手に大量に持っても、その後のハンドリングでロスが出る。近場の梅を2個ほど取ったらすぐ箱に入れ、反対の手で次を取る。レタス定植の際の両手の動きと同じで、シンプルなルール化が結果的に効率を爆上げすると思った。
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)