第15回 東三河山村の感想 後編
2025.10.20
懇親会
夜は東栄町のゲストハウス「DANON」にて懇親会を行った。
ここでは、先ほどの豊根村のC夫妻に加え、東栄町の移住者Yさん、そして移住者兼東栄町職員のOさんが合流した。参加者が持ち寄った鶏肉グルメを食べ比べながら、さまざまなお話を伺った。
まず、C夫妻について。
奥様はもともと知多半島出身で、大学時代までは都会でキャリア志向の生き方を目指していたという。しかし、そうした生活にガス欠を起こして心を病んでいた頃、昔からスキーなどで親しみのあった豊根村の地域おこし協力隊に応募したそうだ。
経験もないまま飛び込んだこともあり、途中で協力隊を辞めて別の活動をしていたが、その期間に仲良くなった現・旦那さんとの交流が続き、旦那の実家である商店を継ぐ形で豊根での生活をスタートさせたという。
旦那さんは高校時代に豊橋へ出ていたが、そこで「村外での暮らしはもうお腹いっぱい」と感じたらしく、豊根村役場でキャリアをスタート。最初の5年は県庁への出向などもあり順調だったが、6年目から総務関係の仕事を5つほど兼務することになり、完全にメンタルが崩壊。ちょうど奥様が実家を継ぐタイミングで役所を退職し、現在は奥様の部下として商店の広報活動などに力を入れているそうだ。
このご夫婦は役割分担が明確で、二人の主従関係が痛快なほどしっかり成立しており、見ていてとても面白かった。一方で、仕事からスッとオフモードに切り替えて友人のように過ごす関係性の柔軟さにも感心した。
奥様は「自分の能力は1を100に拡大していく力」と分析しており、過去には0→1の事業を目指して、投資上限を定めたうえでデザイン制作活動をしていた時期もあったという。しかし売上が伸びず在庫を抱えたため、今は一旦やめているとのことだった。とはいえ、話していて感じたのは、その経験を糧に豊根のブランドを1から作り上げる力を秘めているということ。めげずに挑戦してほしいなあと、つい無責任に思ってしまった。
一方の旦那さんと話していると、田舎の温かさやゆったりした雰囲気といったポジティブな要素を全て詰め込んだような優しい人柄を感じ、ものすごく癒された。こちらの話を柔らかく受け止め、誠心誠意応えてくれる真面目さと、常に穏やかでにこにことした空気感――これは都会ではなかなか生まれない人間性だと思う。奥様の積極性を、後方から“マイナスイオン”で支えているような関係性が本当に面白く、また役所で修羅場を乗り越えてきた過去も含めて、とても奥ゆかしく惹かれるご夫婦だった。

あまり多く話せなかったのが残念だが、東栄町に移住したYさん(元看護師)のお話も少し伺った。驚いたのは、自分が楽しいと思う東栄町の自転車ツアーを口コミベースでどんどん企画しているということ。本人は「楽しいからやっているだけです」と笑っていたが、補助金と引き換えにアイデアを提供しようとする人たちばかり見てきた自分にとっては、本当にありがたい存在だと感動した。行政の課題は、こうした有能な人材をどう登用し、適切な自由と環境を設計できるかにあると痛感した。
懇親会の後、「DANON」を切り盛りするJさんとお話しした。
Jさんは沖縄出身で、四日市で働いたのち、知り合いを頼って東栄町の地域おこし協力隊に就任。そのまま12年間暮らし続けているという。穏やかで独特な雰囲気を持つ方だった。しかも、東栄町の地域おこし協力隊第1号だそうだ。ほかの自治体(豊根・設楽・新城)はほぼ「ダミー公募」で本命が決まっていた中、東栄町はぶっつけ本番でJさんに決めたという。
当初、Jさんは東栄町で大切にされている「花祭り」の存在を知らず、不合格を覚悟していたが、結果的に採用。後日、花祭りに参加した際、踊りの代表格の人物がよそ者扱いするような態度をとっていたが、そばにいた役場職員や近所の方々が、自然に踊りの練習へと誘ってくれたという。その温かな対応に、「やはり人の心は、そういう自然な気遣いによって温められるんだな」と共感した。
本番では、真剣に練習していたJさんを認めたのか、その代表もハイテンションで話しかけてくれたという。
話していて印象的だったのは、田舎のめんどくさい部分をうまく受け流し、ほどよい意志を持って生きている姿勢の爽やかさ。多くを語る人ではないが、人の話を聞くのが抜群に上手で、聞いた内容に必ず共感や肯定を添えたうえで自分の話をしてくれる。ついこちらが話しすぎてしまい、気づけば長時間になってしまっていた。Jさんには少し申し訳なかった。
翌朝も「DANON」で朝食をいただいたが、改めてJさんのホスピタリティに感動した。優れたホストは、ゲストを気持ちよく泳がせながら聞き上手で、しかもそれを楽しそうにやってくれる人なのだと実感した。ほかの移住ツアー参加者も、食器を拭いたり洗い物を手伝ったりと、自分の役割を瞬時に見つけて行動しており、「この人たちはいつ移住してもきっとやっていけるな」と感じた。
新城市にて
新城市役所にて、移住担当職員のTさんと、テントサウナ事業を立ち上げて新城に移住したMさんのお話を伺った。
このMさんのプレゼンテーション能力と質疑応答の的確さには、ただただ感動した。出世コースから外れ、つらい時期に自分を救った「テントサウナ」を広めたいという情熱を原動力に、行政の公式ルートと口コミベースの“裏ルート”を融合させながら自分の道を切り拓いてきたという。その表情から、苦労の多さよりも前に進む快感が勝っていたことが伝わってきた。
特に印象的だった質疑応答があった。

質問:
「今の仕事を辞めて移住するか、それとも仕事を続けて生活を安定させるかで悩んでいます。Mさんも同じような悩みを経験し、今は新しい事業や家庭の課題を抱えておられると思いますが、この二つの悩みを比べて、どちらがより苦しかったですか?」
Mさんの答え:
「とてもいい質問です。自分にとっては前者の悩みの方がつらかったです。なぜなら、頭の中ではもう答えが出ているのに、現在の安定を手放すのが怖いという“いびつな構造”の悩みだからです。今も多方面で悩みはありますが、すべて自己責任という状況が自分には合っているので、受け入れて前に進めています。ただし、これはあくまで僕個人の意見であって、“他人が責任を取ってくれる方が楽”という人もいるので、断定はできません。」
これはほぼ100点の回答だと思った。
唯一残念だったのは、実際にMさんの仕事場を見学できなかったことだ。
道の駅
たまたま「ギンズ」という、柑橘の盆栽を作っているご夫婦の出店を発見した。石付きタイプの盆栽や、ランは霧吹きで少し水分を与えるだけで枯れないという貴重な話も伺えた。旦那さんが主に盆栽を手がけており、その仕事は非常に丁寧だった。盆栽のレベルで金柑がたわわに実っていて、購買意欲を刺激されたが、今回は見送った。
接ぎ木の方法などテクニカルな話もたくさん聞け、とても充実した時間だった。東三河の道の駅は、どこも活気があって本当に良い雰囲気だ。
宇宙村

最後に、新城市の作手地区で昼食をとった。
ほうれん草カレーとプリンのセットだったが、プリンの濃厚さには本当に驚いた。プリン好きとしていろいろ食べ歩いてきたが、ここはホールで買いに来たいレベルだった。
お店のデザインも一見奇抜だが、クラシックな内装と店主のハードボイルドな雰囲気が調和し、田園風景の中で唯一無二の存在感を放ちながらも周囲と矛盾しない――不思議なバランスを醸し出していた。
店主のBさんは、自分の生い立ちから今に至るまでの話を、まったく淀みなくテンポよく語ってくれ、質問する暇がないほどだった。
地元に住みながらも二拠点生活をしており、その「適度な距離感」によって救われる部分が多いという率直な言葉が印象的だった。
また、地元のことを地質レベルで理解している「ごんちゃん」という元JA職員の不動産屋の存在について、「移住者にとって本当に大きい」と語っていたのも鋭い指摘だった。自分もかつて移住支援に携わっていた経験から、顔の利く窓口的な人が地域にいると、すべてがスムーズに進むことを実感していたので、「どんな経路で来た人も最終的にはごんちゃんを紹介する」というBさんのスタンスには深く共感した。
Bさんの何より素敵だった点は、接客スタイルだ。
最初は強面で少し緊張したが、メニューの説明を丁寧にしてくださり、その瞬間に一気に心をつかまれた。小さな子連れ客に対しても、子供用メニューを説明したり椅子を用意したりと、細やかな心配りが徹底しており、「コワモテギャップ」で誰もが好きになってしまう仕組みができあがっていた。
最後に、子供からタイヤや石をプレゼントされ、店のミニカーをお返ししていた姿があまりに粋で、思わず「ここに移住したい」と感じたほどだった。
2日目に出会った移住者のお二人は、1日目の「傾聴力に長けたタイプ」とは対照的に、積極的に自己開示しながらも、相手の話に真摯に応じてくださるタイプだった。
いずれにせよ、誠実で人の話をしっかり聞ける方々ばかりで、またすぐに会いに行きたいと思える出会いの連続だった。自分が移住しないまでも、移住を検討している知人がいれば、間違いなくおすすめしたい地域だと感じた。
またまた最高のツアーでした!
次回もよろしくお願いいたします!!!
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)