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第11回 岡山紀行パート2 (前編)

2025.09.22

7月末に岡山で行われたお酒の発表会とその後の食事会に参加されたかめっち先生。そのレポートを2回に分けてお届けします。今回はその前編です。

お酒の発表会

発表会が開始され、高島雄町協議会のN会長から、雄町という品種の特性についての説明があった。もともと岡山県の品種で、最も多い時には9000haで栽培されていたものの、50年前には3haまで規模が縮小したという事実にかなり驚いた。その後現在は1000ha以上で栽培されるところまで勢いを取り戻したようだが、とにかく倒伏しやすく硬い品種なので栽培泣かせだというところが印象的だった。また、品種の特徴を心白の分布(山田錦に比べて球面上に分布)により説明してくれたので、酵母や麹が心白に接触しづらく、醸造も難しいということがより具体的に理解できたのが収穫だった。

続いて岡山県立大学のT先生から、酵母を単離する過程に関する発表があった。酵母の中でもいわゆる Saccharomyces cerevisiae(出芽酵母)をビールやパンといった用途に合うよう調整していったのが、調整酵母である、というのを犬の品種になぞらえて教えてくれた。学生がかなり膨大な天然酵母のサンプルを雄町から採取し、その中でもキラー活性という他の種に対して生育阻害物質を出すことで、自身のみ生き残ろうとするようなタイプのものを除去していった結果、酒造りに使えそうな酵母は2つしか残らなかったというのがシビアだった。そして、それらを使って醸造すると、バナナのような香りを持つ面白いお酒が出来上がった、という話は非常に興味深かったうえに、このような産学官連携事業に、しっかりと研究室の学生を参加させていく姿勢から、T先生の教育者としてのすばらしさを感じた。

醸造の話は少し難しかったのだが、最後に工業センターの担当者であるY先生が、主成分分析を用いて、実際の味覚値と、それに寄与するエステルやアミノ酸などを図にプロットし、日本酒でいわれる「華やかさ」といった要素がどのように形づくられているのかを示してくれた。また日本酒度という良く分からない指標についても、単純に比重のことを表しているだけで、アルコール度数が高ければ比重が小さくなるので、日本酒度が上がる、ということらしい。これらの酵母を調整して、品種として確立させるかという質問に対して、「日本酒としてはかなり例外的な風味なので、この酵母を調整して、再現的にこの日本酒を作るような製品化が必要かと問われると、それは今後のマーケットにおいて需要が確立されるかどうかにかかってくるし、調整の過程で風味なども変化していくので、現時点でそこまで進むことは考えられない」という答えが非常にリアルだった。

実際に4つのタイプのお酒を試飲したのだが、自分にとっては、日本酒の例外とされている、学生さんが単離した酵母による日本酒が最も飲みやすく、いわゆるスタンダードな日本酒はややきつく感じた。やはり自分にとっては、お酒は単体で飲むよりも、何かしらあてと一緒に飲むのが楽しいよなぁと実感した。

最後にJさんという今回のお酒の醸造を担当した酒造会社の社長さんが、「今回のお酒は、はっきり言ってコンクールでは全く評価されないものだ。ただ日本酒業界も、コンクールに準拠した減点方式によって、ある種の品質や腕前のようなものが担保されたのは間違いないが、今後はいかに多様な味わいを受け入れながら、しかも品質は落とさないという市場を確保できるかが大事だ。」と素晴らしいスピーチでこの充実した会を締めくくった。

食事会にて

Fさん「現在、Aさんという方が川沿いの砂質圃場でにんじんを作っているのだが、黒い斑点のような病害が栽培過程にて広がってしまい、このままでは農業の継続が危うい状況となっている。Hさんはそのような事例を何かご存じか?」
Hさん「黒い斑点の病気というと、おそらく細菌かカビだと思われるが、こういった病気はホウ素などの微量元素欠乏が原因となることが多い。基本的には研究機関にその実物を差し出し、シャーレにて培養するか、顕微鏡にて観察するかして、その原因となる病原体を正確に特定することが最も重要になるだろう。」

Kさん「それはその通りだ。そういった場合は県にお金を支払う必要があるのか?というかそもそもどこが引き受けてくれるのか?」

Hさん「正確にいくら、というのは一概に言えないが、県に相談すれば、場合によっては安価に対応してくれる気がする。」

Fさん「なるほど、確かにまずはその病原菌に関する情報を把握するのが大事だ。そこが少し抜けていた。」

Hさん「あとは一般的に、どのような土壌であろうが、根圏付近の水の抜けが悪い圃場はやめた方がいい。基本的には病原体にとって居心地の良い環境をいかに避けるかが問われてくる。」

水田にブドウを新植

Fさん「知り合いのWさんというブドウ農家が、元々水田だった農地にブドウを新植しようとしているのだが、その際に考慮すべき点はあるか?」

Hさん「地下水が根域圏内に常に存在していたり、根域に停滞している水分が存在していると、そこが根の病気の要因になってしまうため、そういった場所は避けるべきだが、きっちり水が抜ける場所であれば、真砂土とバイオ炭ベースで、若干リン酸や石灰を混ぜ合わせた土壌を80cm程度敷いて、その上から幼木を定植してやれば問題ないと思う。同じようなことをCさんという農家が行い、雨除けありでシャインマスカット栽培を行っているが、非常に良いものができている。」

Fさん「なるほど、非常に参考になる。現在、Oさんを中心とするブドウ生産者グループと、Wさんの法人が、市場での競合をしないようにそれぞれの売り方(量で勝負、少量高付加価値市場で勝負、観光農園で勝負、など)の再定義を行っている。やはり生産者は、競合が増えるという心理になってしまうと、どうしても自身の利益確保に意識が行ってしまい、排他的な動きになりがちなので、そのあたりはコンサルとしてうまく調整していきたい。」

Hさん「いずれにせよ、経営理念のようなものをしっかりと持っていることが大事だろう。理念がないと、そこから外れていることに気付くことができない。」

SRU研修について

Fさん「最近、自分自身土づくりの重要性について学ぶ機会に恵まれた。ニュージーランドで土壌診断コンサルタント業に従事するVという男性が、科学性・物理性・生物性の3つにフォーカスした土壌診断・改善手法を提起しており、いわゆるNPKという3大要素だけに着目するのではなく、マンガン(光合成能の改善)やホウ素(細胞壁の強化)といった微量元素にもフォーカスする施肥体系(科学性の改善)、さらに牛糞堆肥などの有機物を適度に投入することにより、団粒構造を作り、植物がいつでも適量の水を吸収でき、同時に過剰な水分は流れていくような土壌を目指し(物理性)、そういった状況で根域の生態系を育み続けることで、作物と土壌微生物との相互扶助(栄養素のやり取りなど)効果を高めていく(生物性)という理論だそうだ。」

Kさん「自分も、JAや県の指導で一番由々しき問題は、定量性がなく、ただ科学性にのみ着目していることだと長年思い続けてきたので、この理論はスッと腹落ちした。牛糞堆肥にしても、現状の分析値から考えると反あたりどれくらい必要かを定量し、具体的な商品名で施肥指導せず、あくまで肥効ベースでの土壌バランス改善を最優先にしている。」

Hさん「お二人が指摘した点は、日本の土壌改善手法に最も欠落した部分であるのは間違いない。アメリカの研究機関は、日本のような5味に基づく作物の味覚成分量と土壌分析結果の関係のような漠然とした指標ではなく、作物の味覚と関連する成分分析結果と、土壌の科学性(微量元素や主要元素)との相関をきっちり取りながら、ものすごく精密な研究指標に基づいた栽培指導を行っている。日本だとデリカフーズがその手法に準拠している。」

かめっち「デリカフーズが農業現場向けの土壌コンサルティングをしているとは初耳だった。」

Fさん「育土の過程で、野菜の場合は天地返しをせず、あくまで弱耕起というのが基本になろうかと思う、とおっしゃっていたのも印象的だった。」

Kさん「稲作の場合は、収穫を終えた後の土壌の還元力がかなり高まっており、土が固くなっていることがあるため、田起こしは避けられないと思うのだが。」

Hさん「それは絶対に田起こしすべき。特に規模の大きい農業で、土壌診断のみに忠実にやっているわけにもいかないし、可能な範囲で育土効果を妨げない効率化方法を模索すべきだと思う。水田の場合はKさんが指摘した通りで、土壌がカチカチになっているため酸素を入れてやらないとどうしようもない。ちなみに果樹の場合は、ここまで熱くなってくると草生栽培しか道はない。それだけで地温が下げられるうえに、夜間に露が下りるので、土壌に水分も維持される。」

かめっち「ちなみにこのSoil Research Unionの考え方とBLOFの考え方は似通っているのか?」

Hさん「土壌をこの3つの観点から捉える、という意味では同じ路線の考え方だと思って差し支えない。岡山県でもBLOF理論をきちんと理解したうえで、有機資材を有効活用した育土を基本とした栽培方法がきちんと広まっているように見受けられる。きちんと栽培過程を語れない程度のレベルの人間が、理論の穴を攻めるようなやり方は感心しない。」

後編では、岡山の農業についてどんどん話が盛り上がっていきます。
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)

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