第12回 岡山紀行パート2 (後編)
2025.09.29
7月末に岡山で行われたお酒の発表会とその後の食事会に参加されたかめっち先生。そのレポートを2回に分けてお届けします。今回はその後編です。
岡山県の強み
かめっち「JAが強くないというのはどういう背景があるのか?」
Hさん「ぶどうに関して言えばもともと、JAが窓口になる前から農家同士が各地域で出荷組合を組織していた。そういった組合が、栽培から流通まですべてを分業することなく手分けして全員で進めていったことから、現在の岡山のブランディングが始まったと言えるだろう。例えばマスカットの市場で考えると、東京・大阪・名古屋・福岡といった主要消費地それぞれで消費者の嗜好性を理解していき、その知見を各生産組合が協調的に組み上げていった結果、現在の成功がある。緑の個体は大阪、黄色く過熟気味のマスカットは東京といった傾向は、その際に見出して、ある種岡山がそういったキャンペーンをした結果だともいえる。」
かめっち「それはものすごく興味深い。特に、分業せずに栽培・梱包・出荷・販売に至るまで全員で行ったというのは、品質とマーケティングが連続的に関連を持つためにはとても大事だと思った。」
Hさん「岡山人の特徴として、難しい品種を徹底的に観察・実践を繰り返し、自分がその第一人者になろうとする傾向が強い。これによって高い品質を確保している。例えば桃にも非常に難しい品種が存在するのだが(長果枝に結実するタイプで短果枝を使う方法が実践できない)、そういった品種に挑戦したがる農家が多い。」
Kさん「自分も難しい品種を育てたいという気持ちには共感するものの、そればかり追い求めると後継者不足の要因にもなるなと思う今日この頃である。」

栽培と経営
かめっち「改めて3人とお話しさせていただいて、やはり現場でどれだけの物事を見聞きして、さらには他分野の人たちからどれだけの情報を仕入れているか、というところを高いレベルで実践されているなと実感した。いろいろな農家さんとお話しする中で、スケールしながら経営力の改善もしているところは、やはり栽培担当と営業担当は基本的に分けて考えている場合が多いが、完全な司直型分業ではなく、栽培担当も商談には可能な範囲で参加し、営業担当も営農を可能な範囲でお手伝いする、という分業スタイルの所がうまくいっている印象がある。」
Kさん「自分もその点について悩んでいる。経営塾などで語られる、経営者は現場から離れるべきだ、という教えもそれを助長している。」
かめっち「Kさんは、これまで営業と栽培を非常に高い水準で両立してきていたが、逆に言うとそんなことをこなせる人の方が少ないというのは言える。これまでだとS果樹園のE会長とK会長くらいしかそんな人はいない。」
Kさん「そもそも栽培と営業を分けて考えていないと言う方が正しいかもしれない。営業に行って、自分の作ったものの価値であったり、改善点、さらには顧客と触れ合う立場の業者さんからの要望を聞きながら、自身の技術を駆使してそこに近づく品質を作る、というのが経営なのではないだろうか。自分は、この居酒屋さんにもお米を提供しているのだが、こういった関係性によって、新たなフィードバックがたくさん生まれ、それに対する答えとして品種なのか。それとも栽培管理の改善なのか、といったところに落とし込んでいくのが自然だと感じているので、分ける意味が分からない。」
Hさん「本質的には全く持ってその通り。岡山県の生産組合も基本的には同じ考え方で市場を理解し、そこで市場からの信頼を得るとさらには市場を開拓(新品種や新たな食べ方の提案)という形で、消費者に対してイニシアチブを握ることができる。」
Fさん「ただ一方で、農業法人化した時点で、人材管理という要素から逃れられなくなる。ここのマネジメントにも、お二人がおっしゃっていた営業や栽培のつながりが分かるような仕組みを導入していくのはありかもしれない。」
Hさん「1年間人事を経験して大切にしたのは、その子が何に興味があるかというところ、できるだけその子の『好き』という感情を仕事に直結させられる人事を心掛けた。食事などでもそうだが、誰かをご飯に誘うときに、例えばラーメンといったように、ある程度幅を限定して話していくと、その中での多様な会話につながる。盛り上がる会話には多少のマニアックさが必要になると思う。」
県北農業の活発な動き
 Fさん「元T市役所職員のIさんもBLOFを積極的に取り入れる栽培方法の工夫や、農業外とのコラボレーションなど様々な新しい挑戦をなさっており、大変応援しがいがある。」
かめっち「本当に岡山県は、マニアックを極めていく変態性が、農業という営みに見事に溶け込んでいる。栽培マニアもFさんと仲良くすることで、新たな可能性を切り開くことができる。」
Fさん「ただ私の目から見ても、KさんとHさんは行動力の次元が違う。基本的に岡山のマニアック農家は、その物事に集中しすぎると、それ以外のことに目がいかないということもあるのだが、この二人はマニアックに深掘っていく範囲が非常に広い。それによって自力で新たな可能性をどんどん開いていくため、コンサルの立場である私が勉強させていただくことが本当に多い。」
Kさん「人は好奇心か危機感によってしか動かないと思うが、今皆に指摘されると、確かに自分は好奇心が強い。面白いことが好きなのと、そういった様々な可能性が自身の農業経営の多様化に確実に結びつくという確信があるからだ。バイオ炭もそうだが、自身が実践して良かった取り組みは、どんどん外に普及させていきたいし、その精度を上げたいと思ったときには、今回のSRU研修のような場面にも積極的に顔を出したい、と思うのが自然だ。」
Fさん「そういう意味では、県北は好奇心タイプの農家がかなり多いので、バイオ炭の事業も盛り上がっている。有機農業というよりは、適切な土壌改善に基づく持続可能な農業を展開していければと思う。」
Kさん「県北は本当に面白い。バイオ炭をやっているおかげで、不審がられずに多くの新規参入者と交流できる。」
Fさん「こういった流れに、県としてコミットできそうな人材はいるか?」
Hさん「Bさんは入ることができると思うが、彼も公務員とは思えないとがった人材なので、どうコミットさせるかはしっかり検討しなくてはいけない。」
かめっち「そのあたりの好奇心というのは、E会長にも通じるところが大きい。」
Hさん「彼らがリモセンに基づくスマート農業を開始したときに、そのセンシングユニットを作成したのが自分の地元の知り合いで、自分もそのお手伝いにかなり深くかかわった経緯がある。最終的にパブリックデータを商用利用する観点で、データは買い取ってS果樹園で分析する、という方法になった。とにかく大変な作業だったが、スマート農業の目指す方向ということが理解できた貴重な体験だった。」
その他
Kさん「自分は、赤いトウモロコシをお米と混ぜて、彩を持たせるようなことを考えている。実際にトウモロコシご飯が美味しいことは体験済みなので、そういう商品を開発できないか、と考えている。」
Hさん「それは絶対面白い。昔から穀物の黒色はアントシアニン系統の色素が酸化したものなので、新しい穀物の消費手段として、赤い状態のアントシアニンを食べる、というのは理に適っている。現在、品質を語る上で、きっちりと健康への有効性を論じる必要があるのではないかと考えており、そんな中で17年前の記事を見つけた。これによると黄桃は抗酸化力が他の品種に比べて強いそうなのだが、そういったことをしっかりと理解している人は少ない。マーケティングに関しても、機能性を正確な分析結果(臨床研究)とリンクさせる努力がさらに大事になってくる。」
Fさん「その観点のマーケティングはすごく重要だと思う。」
Hさん「話は変わるが、現在抹茶と姫レモンを合わせて新しい価値を生みたいと模索している。しっかりと樹勢管理を行った細胞壁の充実した濃縮感の高い果実を香りだたせたとき、それらは抹茶とものすごくマッチするのだ。」

感想
またもや創造の斜め上を行く楽しい議論に花が咲き乱れた。お酒が出来上がるまでのストーリーからは、産学官各セクターの人間同士がきっちりとコミュニケーションを取ってきた経緯が鮮明に読み取ることができ、ここに酒屋さんなども連携していくと、実際の販売という方向にもつながっていくような気がした。産学官の連携は、得てして学と官でつまずくことが多いのだが、今回は学のパートにT先生がしっかりコミットし、学生を主体に設計したことで、報道陣にもアピールする活動になっていたことが素晴らしいなと思った。また、ここで実験を頑張った学生が、地元の酒造メーカーに就職した、という話も地域内の人材循環を感じられていいなと思った。あとは、あまり官が出しゃばらないことも、プロジェクト成功のカギを握っているなと思った。要は技術なり専門性から発露したプロジェクトが、「岡山県発祥の品種である雄町をアピールする」という確固たる信念に基づき、各セクター間に理念を浸透させ、商品開発という中間ゴールに到達したということなので、Hさんが言っていた「明確な理念」の重要性にも改めて気づくことができた。
後半戦のお食事会は、とにかく岡山県の食の豊かさで殴られたような衝撃を受けた。中でも、最後の〆のご飯とその上に掛かっているおかかのようなおかずの組み合わせが至高だった。会話の中で、しっかりとした理念を共有するためには、まずは自分がぶれないことが大切なのだということだと言われた。これはかたくなになるということとは逆で、目的のためには良い意味で手段を選ぶ必要はなく、貪欲にあらゆる立場の人たちとかかわっていくことが大切だ、という意味だ。Kさんは「良いお米を消費者に届ける」、Hさんは「最高の食味と香りにこだわった果実を作る」、Fさんは「変態が楽しく儲かるための環境づくりをする」という目的のために、この行動力が実現するのだなと腑に落ちた。
かめっち先生の旅はまだまだ続く(毎週月曜日更新)